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米原女性殺害裁判 難しい状況証拠の立証

滋賀本社・山下悟
殺人罪に問われた森田繁成被告に懲役17年の判決が言い渡された裁判員裁判の法廷(昨年12月2日、大津地裁)

 米原女性殺害事件の裁判員裁判で、殺人罪に問われ、否認を続けていた森田繁成被告(42)に懲役17年を言い渡した昨年12月2日の大津地裁判決(控訴中)は、積み上げられた状況証拠から裁判員らは犯行を認定した。8日後、同様に被告が否認していた強盗殺人事件の鹿児島地裁判決は無罪を言い渡した。いずれも裁判員裁判最長となる10日間の審理で、異なる結論が出された。市民から選ばれた裁判員が、状況証拠のみで事実認定ができるのか。両裁判はその試金石となった。

 大津地裁の公判は、裁判員へのわかりやすさが重視されていた。証人尋問や捜査報告書の調べは、被害者との関係や事件後の行動などの争点ごとに整理して行われた。被告人質問が6日間にわたったことも画期的で、裁判員の心証形成に大きな影響を与えたとみられる。事実認定のポイントとなる直接証拠と状況証拠の違いについても、裁判長が具体例を交えて裁判員に説明した。法廷では、途中解任の1人を除き全裁判員が活発に質問した。ある裁判員は判決後の会見で「判決理由には裁判員の考えがかなり盛り込まれている」と充実した表情を見せた。

 裁判員の市民感覚はどのように生かされたのか。甲南大法科大学院の渡辺修教授は、判決が、犯行の動機を特定しなかったことに着目する。「裁判官だけなら明示したかもしれない。裁判員は動機という主観的な内容まで踏み込むことを避けた。良識を持って冷静に判断した、信頼できる判決」と評価する。

 一方、死刑求刑に対して無罪判決を言い渡した鹿児島地裁判決。現場の指紋を証拠採用しながらも「被告が過去に触れた事実が認められるだけ」と判断した。村井敏邦・龍谷大名誉教授は、「状況証拠での立証は被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実関係が必要」とした昨年4月の最高裁判決の影響を指摘する。「あれは最高裁から裁判員へのメッセージ。今回の無罪判決は、厳格になった新基準に沿っている」と語る。

 状況証拠による事実認定は、プロの裁判官でも難しいとされる。大津地裁では昨年、3件の刑事事件で無罪判決があり、過去10年で最多だった。「裁判員裁判が始まったことで、裁判所がより慎重に証拠を判断しているのでは」とみる弁護士もいる。

 難解な審理は、裁判の長期化という問題もはらむ。大津は裁判員選任から判決まで31日間、鹿児島では40日間を要した。最高裁の竹崎博充長官は新年のあいさつで「長時間に及ぶ事件が増加し、生活面でも心理面でも裁判員に大きな負担を求める事態が生じてきた」と言及した。しかし、村井名誉教授は「事実関係を確かめるのに日数がかかるのはやむを得ない。しっかり議論を尽くすことが、逆に裁判員にとって充足感につながるはず」と語る。

 米原女性殺害事件は、公判の日程、裁判員の負担、立証手法など、さまざまな課題や示唆を含んでいる。裁判員法は、施行3年後の2012年に制度の見直しを検討する、としている。現行制度について国民全体で議論を起こさなければならない。今回の裁判はその重要な実例となる。

[京都新聞 2011年1月12日掲載]

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