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配偶者からの言葉の暴力 精神的DVに理解を

南部支社・今口規子
宇治市役所で開かれているDV防止啓発展示。被害女性は「平和」と書いた染色作品を制作した(宇治市宇治)

 穏やかな暖色で彩られた染色作品が今、宇治市役所1階に展示されている。テーマは「平和」。描いたのは、長年、夫から怒鳴られるなどの精神的暴力(モラルハラスメント)を受けていた女性(43)だ。女性に取材すると、途切れてしまう記憶をたどりながらゆっくりと話す様子は、心に刻まれた傷の深さを現していた。

 「見えない暴力」が「見える」ようになるにはどうすればよいのだろう。精神的暴力は、ドメスティック・バイオレンス(DV)防止法の中で、暴力と定義されながら、被害者も周囲も気づきにくく長期化しやすい。

 女性は20年間、夫から、周囲に悪口を言いふらされたり、生活費や医療費を出し渋るなどの精神的暴力を受けていた。一度に数万円をパチンコで使う夫に意見すると、何時間もののしられた。けんかをすれば「おまえが悪い」と言われ続けた。

 離婚を考えたが、夫は避妊に協力せず妊娠。離婚後の生活費の不安が大きく、「結婚したんだから我慢しなきゃ」と言い聞かせた。次第に頭痛が慢性化し、日々の献立が考えられないなど思考力が低下、うつ病と診断された。しかし、DVとは思ってもみなかった。

 子どもの不登校を相談したスクールカウンセラーがDVと指摘した。それでも「殴られてませんよ」と疑った。「言葉の暴力もDVです」と繰り返すカウンセラーから、支援組織につながり、2年前、シェルター(一時避難所)に子連れで駆け込んだ。

 昨年、調停を申し立て、離婚が成立したが、現在もうつ病の薬は手放せず、料理はできない。出掛けた先で、出掛けた理由を忘れることもしばしばあり、働きたくても働けない。3人の子のうち2人もうつ病と診断された。本来、信頼し助け合うはずの配偶者から受けた傷は、離婚後もなかなか癒えない。DVを目撃している子どもたちにも大きな影響を及ぼす。

 相手の人格をおとしめるDV共通の構造が問題なのだ。しかし、一つ一つはささいな攻撃に見えるため、「どこの家にでもある」「たいしたことではない」と思いがちだ。被害者は過剰な罪悪感や自責感、責任感を植え付けられており「自分にも悪いところがある」と我慢してしまう。不登校や経済問題などで行政の女性相談を訪れる人のうち、実際はDVが原因であることも多いという。

 教育や医療など子どもや女性に関わるさまざまな窓口が、精神的暴力という視点を持って相談に応じ、本人の気づきのきっかけとして機能してほしい。

 「相手が不機嫌なのは、自分にも問題があるから」「自分さえ我慢すれば」「子どもが大きくなるまで」。そう感じている人に言いたい。あなたは、幸せになっていい。私は、あなたに幸せになってほしいと思う。自分を大切にすることが、子どもや家族の幸せにつながる。

 女性は最近、小さなカフェで短時間だけ働き始めた。「自分の将来はどうでもいい。ただ子どもが心配」と繰り返す彼女が、平和な自分の未来を描けるように願っている。

[京都新聞 2011年11月30日掲載]

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