The Kyoto Shimbun
取材ノートロゴ

110周年の京都市動物園 「代償」踏まえた役割、説明を

社会報道部 生田和史
牧草の中から細かく刻んだ野菜を探すゲンキ(右)。餌を食べる時間が延び、一度食べたものを口から排出する「吐き戻し」の減少につながっている(京都市左京区・市動物園)

 施設内を徘徊(はいかい)したり、ふんを食べる。動物園という特殊な環境に生きる動物たちに起こる異常行動の一例だ。ストレスや暇つぶしが原因とみられ、健康にも良くない。京都市動物園(左京区)では、生き生きした姿を来園者に見てもらうため野生に近い飼育に近づけ、課題と向き合う。リニューアルが着々と進み、環境教育や種の保存などの担い手に脱皮を図ろうと懸命だ。だが、そのためにも動物園の役割を積極的に市民に発信することが求められる。

 ニシゴリラの雌ゲンキは以前、一度食べた餌を口から排出する「吐き戻し」が目立っていた。餌を一気に口に入れ、数分後に吐き出し、すぐに食べ、また吐き出す―。多い時で30回近く繰り返すことがあった。父親のマックも吐き戻し癖があったため、自然に身についたのではと飼育員らは推測する。

 同園動物管理係長の長尾充徳さん(50)は「本来、野生でする行動の代替えの意味が強い。吐き出したものは胃液を含み、粘膜を傷付ける恐れもある」と指摘する。

 従来のゴリラの食事は一度に与え、ゲンキはそれを一気に平らげるのが常だった。野生では餌を探索しないといけないため必然的に食べる時間が長くなる。園では吐き戻し対策として約5年前から、さいの目状に細かく切った野菜をわらの中にまき、一気に食べられないよう工夫した。

 この結果、食べる時間を30分から約1時間半に延ばすことに成功し、狙い通り、吐き戻しは止まった。

 ゴリラと並ぶ人気のキリンも異常行動は確認されている。柵を舌でなめる「柵なめ」だ。塗料は有害。餌の木々を柵にくくり付けることでゴリラ同様に異常行動は減った。

 グレビーシマウマ、トラ、クマなどは同じ所をぐるぐる回る徘徊行動が見られたが、園の努力で減ったという。企画係長の山下直樹さん(50)は「異常行動がなくなることはない」と言い切る。それでも市民に公開する必要性について「希少な野生動物が多く、一堂に会して見られる場所はない」と意義を強調する。

 京都市動物園は現在、施設の全面改修の真っただ中にある。開園110年の節目をとらえ、連載で変貌する動物園の今を紹介した。取材の中で動物たちの異常行動と対策の労苦を知った。飼育下の動物に起こる「宿命」ともいえるが、こうした代償の上に動物園が成り立っていることを忘れてはならない。

 今後も施設のリニューアルは続く予定だ。ただ、動物たちの置かれた厳しい状況の周知はまだまだ不足していると感じる。環境教育や種の保存など現代動物園が打ち出す新たな役割と並び、多くの種類の動物が一度に見られるという大切な意義をどう市民に発信し、理解してもらうのか。自治体動物園としての真価が問われている。

[京都新聞 2013年5月8日掲載]

▼前の記事取材ノートからTOP次の記事▲

各ページの記事・写真は転用を禁じます
著作権は京都新聞社ならびに一部共同通信社に帰属します
ネットワーク上の著作権について―新聞・通信社が発信する情報をご利用の皆様に(日本新聞協会)
電子メディアおよび関連事業における個人情報の取り扱いについて
記事に対するご意見、ご感想はkpdesk@mb.kyoto-np.co.jp
京都新聞
京都新聞TOP