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妊娠生徒へのまなざし 体面重視の学校に違和感

滋賀北部総局 森敏之
長男を優しく抱く少女。「妊娠が分かり、産む以外の選択は頭をよぎりませんでした」と振り返る
長男を優しく抱く少女。「妊娠が分かり、産む以外の選択は頭をよぎりませんでした」と振り返る

 3カ月ぶりに会った少女(19)は、すっかり母親の顔つきになっていた。生後5カ月になる長男をベビーカーから抱き上げ、「かわいいでしょ」と繰り返す。親元を離れ、夫と長男とアパート暮らしを始めて1カ月半。現在、京都府立高の通信制に通い、来春の就職を目指している。

 少女は本来、高校を3月で卒業できるはずだった。しかし、妊娠7カ月だった1月、卒業の条件として体育の実技を求められ、休学せざるを得なかった。この問題を6月に報じたところ大きな反響があった。学校の対応に賛同する声が社会に一定あったことは、妊娠生徒へのまなざしの冷たさが一つの高校だけの問題でないことを示している。

 取材の過程で、生徒の心情よりも学校の体面を重んじる教育現場に違和感を覚えた。二つの問題を確認しておきたい。

 第一の問題は、法律で教育を受ける権利も産む権利も保障されており、妊娠すれば休学という校則がないにもかかわらず、学業の継続を望む生徒が休学に追い込まれたことだ。

 高校卒業の有無は就職活動に影響し、その後の人生を左右する。生徒は出産予定が4月で、卒業していれば、新たに通信制に通わなくても育児と仕事の両立に、今とは違う道筋を描くことができたはずだった。

 しかし、高校は3学期の始業式前夜、生徒の母親に「体育は補習も実技」と念を押した。文部科学省が「妊娠も病気と同じように配慮が必要」と指摘するように、見学やリポート提出など他の手段を取れたはずだ。

 第二の問題は、記事掲載を受けて高校は妊娠生徒への対応を改める意向を示したが、「生徒が通学していたら実技を強制するつもりはなかった」と釈明し、教育現場に対する生徒の不信を高めたことだ。

 そもそも高校は生徒や親に実技以外の選択肢を示していなかった。副校長は取材に「妊娠すると子育てに専念すべきで卒業するのは甘い。これは府民の要請で校長も含めた学校としての判断だ」と、妊娠への懲罰とも受け取れる発言をしていた。

 生徒は高校の釈明に絶句し、「もう先生たちが信じられない」と嘆いた。

 16〜18歳で出産した少女は昨年、府内101人、滋賀県内71人。教育現場の理解と支援がない場合、学業の継続を願う妊娠生徒に実質的に中絶を強いることになりかねない。

 高校生の妊娠を美化したり勧めたりするつもりはないが、妊娠した当事者とおなかの赤ちゃんがいる以上、その現実から目を背けるわけにはいかない。そして本人が希望するなら、学べる環境を整えてもらいたい。「妊娠と出産は自己責任」と10代の母たちを突き放したり、無知や孤立を放置したりしない取り組みが、社会に求められている。

[京都新聞 2016年10月5日掲載]

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