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京都市美術館命名権問題 原点に返った議論を

文化部 河村亮
命名権問題に揺れる京都市美術館(左京区岡崎円勝寺町)
命名権問題に揺れる京都市美術館(左京区岡崎円勝寺町)

 日本では初めて、おそらく世界でも初めて、公共の美術館の命名権が売却される。京都市美術館のネーミングライツを京セラが50億円で取得する。市内では京都会館をはじめ、体育館、競技場などが対象になってきたが、美術館への違和感はぬぐえない。

 それは、コレクションを核とする市美術館の成り立ちから発する。古来、美術文化の先進地京都は優れた美術家や工芸家を生み、作品を蓄積してきた。地力があり、美術館には、地元の作家や遺族らが作品を寄贈し、美術館のコレクションを形成してきた。この流れに加わることは、寄贈する市民の自負、誇りにもつながっていた。所蔵品の約8割を寄贈品が占めるのはそうした理由だ。まして、購入予算も少ない今では、寄贈は貴重だ。コレクションは美術館の「人格」であり、館は単なる「器」ではない。

 友禅の重要無形文化財保持者(人間国宝)の森口邦彦さんは「そもそも、この美術館は『京都市立美術館』ではなく、『京都市美術館』です」と語る。前身の「大礼記念京都美術館」は83年前、関西財界と町の人々がお金を出し合ってできた。「それなのに、なぜ市民にどう思うか聞かないのでしょう」。厳しい財政の中、美術館関係者らは運営資金の確保に苦労してきた。ならば、実態を公にし、シンポジウムなどを開き、市民と問題を共有すべきではなかったか。美術館の在り方を考えることは現在だけでなく、将来にも生きるはずだからだ。

 京都は芸術系大学が多く、国際的に活躍する現代美術家を輩出してきた。だが、それらの作家の展覧会が地元でできなかったのも事実だ。その発表の場として、現代美術館の必要性は分かる。ただ今回、約100億円を見込む改修費の中で現代美術館を建てた後、どのように運営していくのか、どんなビジョンを描いているのか伝わらない。

 命名権の問題は8月上旬に議会で表に出て以来、あまりに性急に進んだ印象がある。本当にこの方法しかなかったのか。海外では展示室など部分的に命名する例もあるという。今回なら、新設の現代美術館にその名を冠することもできただろう。命名権ではないが、兵庫県立美術館(神戸市)は今年、美術品の寄贈や展覧会への助成として、30年以上十数億円を支援してきた公益財団法人伊藤文化財団に対し、銘板を作って顕彰した。同財団は伊藤ハム創業者の遺志で設立されている。支援企業や財団に対して、ポスターやチラシなどに掲載する館もある。顕彰の在り方、方法を考える場があれば、いろんな案が出たかもしれない。

 この時代に、50億円もの支援はありがたい話だ。なのに、反対の声が上がるのは、企業にとっても本意ではないだろう。企業も市も市民も互いによりよい形になるよう、原点に返って語り合うべきだ。

[京都新聞 2016年10月26日掲載]

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