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南座11月新開場 新鮮な歌舞伎、古典こそ

文化部 三好吉彦
11月の新開場に向けて工事が進む南座(京都市東山区)
11月の新開場に向けて工事が進む南座(京都市東山区)

 「なんじゃこりゃあ」−。子どもの頃から歌舞伎を見て、すごい芝居に出合うと、故松田優作さんの名セリフのような衝撃が頭の中を駆け巡った。人のためにわが子を殺して、その生首と向き合ったり(寺子屋)、遊郭に通う若旦那と遊女の痴話げんかをひたすらかわいく見せたり(吉田屋)…。今のテレビドラマや映画では味わえない世界観や時の流れがあり、奥に見え隠れする日本人の心根にはっとさせられた。耐震改修で3年近く休館している京都の南座が11月に新開場する。人気アニメの新作歌舞伎などファンの裾野を広げる試みの一方、個人的には古典でこそ、新鮮に見える至芸を見たい。

 バーチャル映像で浮かぶ人気キャラクター初音(はつね)ミクが中村獅童さんと競演する「超歌舞伎」(来年8月)、アニメ「NARUTO」の新作歌舞伎(同6月)…。新たな南座のラインアップには、新感覚の公演が多く織り込まれた。

 まだ歌舞伎に全く興味のない小学4年の娘に「京都で来年、初音ミクが歌舞伎をするけど、行く?」と聞くと、「行く、行く」と即答だった。今まで歌舞伎を見たことのない人を、劇場にいざなうキャッチーさは間違いなくある。

 引き込んだからには、歌舞伎の世界を広く深く味わってほしい。好みによるが、度肝を抜かれる芝居は“古典”といわれる舞台が多かった。もちろん本当にいい舞台は、古典でも不思議と新鮮に見える。

 「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」という江戸時代中期にできた芝居がある。おとこ気のある浪花男の団七が夏祭りの夜、金に汚い舅(しゅうと)を殺してしまう。坂田藤十郎さんが2006年に初めて演じた団七は、大坂の蒸し暑さ、追い詰められる団七の狂気がこってり満ちる無類の舞台だった。また、故・十八代目中村勘三郎さんが02年、大阪・扇町公園に建てた仮設劇場「平成中村座」で演じた団七は、幕切れに舞台の背景が開き、団七が外へ疾走。観客総立ちの盛り上がりになった。

 役者や演出によって古典でも魅力が変わるのが歌舞伎の醍醐味(だいごみ)であり、不出来の時は客が離れる怖さになる。11月から2カ月連続の顔見世で幕を開ける南座は「毎年顔見世のほか、2〜3カ月は伝統的な歌舞伎をしたい」とする。

 観客目線で言いたいことはたくさんある。まず顔見世は、役者の大顔合わせを大切にしてほしい。看板役者それぞれが得意演目を並べるだけでなく、がっぷり四つに組んだ競演をもっと見たい。

 上方の芝居の掘り起こしにも力を入れてほしい。1999年、南座で復活上演された「小笠原騒動」は、愁嘆場もあれば、大量の水を使った立ち回りもあるサービス精神あふれる舞台が評判となり、全国で再演を繰り返した。若手役者が東京発でなく、京都から発信する場を増やしたい。

 新たなファンを引き離さない気概のある演目が、どれだけ並べられるか。関西で歌舞伎が盛り上がる転機になる。

[京都新聞 2018年7月18日掲載]

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