池坊 由紀

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▼桑原 和則
▼中野 天心
▼松本  司
▼西阪 保則
▼植松 嗣寶
▼笹岡 隆甫
「子育てが自分を変えた」

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立花新風体(花材はレースフラワー、姫蒲=ひめがま=、ヘレコニア、マリンブルー、アンスリウム、プチリス、マドリカリヤ、ゴールデンスティック、モンステラ。花器はガラス器。幅70cm×奥行70cm×高さ75cm)
 ターコイズブルーのスーツからのぞいた少女のような表情。こんなに美しい池坊由紀を初めて見た。

 二カ月前に出産したばかり。由紀は明日香のアー、フーに耳を傾け、夫の雅史は夜中に起きて世話を焼き、長男の専宗は、入浴やおしめ替えを手伝う。どこにでもあるごく普通の家族の暮らしが赤ん坊を軸にして営まれる。

 五百年の歴史と伝統をもつ池坊。その四十五世家元・専永の長女。九年前、次期家元に指名され、将来、二百万社中を率いることになった。若い女にとってさぞ重圧だったろう。インタビューでのことばは、いつも一語一語自分に言い聞かせるような重たさがあった。

 「二十代は、自分の幸福だけが大事でした。でも、家族をもつと、自分よりも大切なことができてくるじゃありませんか。それって、すごく幸せなことと思う。それに、効率的、事務的、経済的、客観的であることがいいと思ってました。でも、子育てはその対極にある。泣いたり、わめいたり、生きてる現実に振り回されますが、だから面白いし、深い」

 子育てが自分を変えたという。

 自由大胆な空間構成の作風に

 作風も大きく変わった。同流では、立花(りっか)、生花(しょうか)、自由花(じゆうか)の三態があるが、二十代の由紀は立花が好きだった。九つの役枝(やくえだ)をもち、水際を一本にまとめた形が自然や宇宙を表す最も古い花型だ。彼女はことに正確な役枝の配置による姿正しい作品を目指していた。

 それが、ここ数年、自由大胆な花に変わった。花態はいつも自由花。三年前の、大量のバンダと透明アクリルを組み合わせた四方正面の実験的作品。二年前の、しだれ桑(くわ)の枝に脱色した檳榔樹(びんろうじゅ)の葉をはめこんだ大作。昨年は脱色しだれ柳の曲線を生かした量感ある構成にオンシジウムと百合(ゆり)を配し、白と黄の色彩を浮き出させた、これも大作だ。

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昨年池坊展で発表した自由花の大作
 「以前はいけばなはこうであらねばならないと思っていて、冒険することに臆病でした。今は一つのことにこだわらないで、いろんなものをためしてみて、いずれ自分の世界ができたらいいな、と思うようになりました」

 「形に花を合わすのじゃなくて、花が最もきれいに輝いて見えるためには、どうすればいいか、いけばなの原点を再確認したんです。花は、自分を飾ったり、自分を表現したりする手段ではなく、花が主人公である作品をいけたいと思う」

 この五月、同流では新しい花型、立花新風体を発表した。長い歴史のなかで、役枝重視の形に力点が置かれてきた立花だが、新風体は、水際の約束を守る以外は、従来の固定観念にとらわれず、いけ手の感性によって自由に空間構成する新しい花型だ。由紀の今の気分にぴったりという。この秋の池坊展での作品が待たれる。

(編集委員 林 恭子)
・いけのぼう ゆき・
1965年池坊家元・池坊専永の長女として生まれる。88年学習院大学国文科卒業。90年得度、法名・専好を授与され、次期家元継承者となる。
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