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時代祭 2

厳格な有職故実の制約

 「有職故実(ゆうそくこじつ)」という言葉がある。宮中に関係する伝統行事や儀式に関する知識のこと。言うは簡単だが、広範、細目にわたり、実に複雑だ。

猪熊兼勝さん

 時代祭は、この有職故実に忠実にのっとって行われる。単なる時代仮装行列ではないゆえんだ。平安から明治維新まで、千年にわたる各時代の「本物」をみせるというのが、時代祭創設以来のコンセプトなのである。

 時代祭の命ともいうべき有職故実に、厳しく目を光らせる人たちがいる。

 「この祭りは、いわば風俗史の論文が歩いているようなもんです。織り、染め、素材、技術…その時代に忠実に再現されている。刀は今、駄目ですけど、まさに本物志向なんですよ」−。時代祭考証委員を務める考古学者の京都橘大教授猪熊兼勝(68)は言う。代々有職故実を研究する家に生まれた。猪熊で四代にわたり時代祭にかかわる。

 猪熊に大きなテーマが課された。1998年の時代祭パリ巡行の際、フランスの学者からも「なぜないのか」と指摘されるなど、長く懸案でもあった室町(足利)時代列の創設だ。

 「ほぼ同時代の楠木正成の列が既にあるうえ、時代は変わったとはいえ、足利尊氏に対してはいろいろな考えがある。ほかにもテーマがあったし、悩みました」と猪熊。

 しかし、もう室町は既定の路線。猪熊のほか、5人の考証委員が集まり「実動部隊」として動くことになった。昨年2月のことである。

細川涼一さん

 意を受けて知恵をしぼったのが同じ京都橘大教授細川涼一(51)。中世の専門家である。

 足利も尊氏も表に出さず、しかも史実にのっとらねばならない。また、馬に乗った本格的な鎧(よろい)武者の再現は「三千万円」(同祭運営の平安講社)もかかるという。予算的な制約がある。さてどうするか。

 考え抜いた細川、他の委員とも相談し思いついたアイデアが「室町将軍列」というネーミング。誰とは特定していない。が、想像の産物ではない。

 モデルは室町九代将軍義尚にした。母は有名な日野富子。烏帽子(えぼし)に直垂(ひたたれ)、小具足をつけ、弓矢に刀という軽装で馬に乗り、臣下を引き連れて近江に出陣する画像も文献もある。

 これが参考になった。「誰とは明示していない。でも、資料的根拠に基づいた本物の再現なんですよ」「軽装でもあり、予算的な要望にも十分応えられるのではと考えた」と苦労を語る。

山路興造さん

 室町時代列にもう一つのアイデアが生まれる。歌舞音曲だ。民俗芸能のオーソリティーで嵯峨芸術大客員教授の山路興造(67)の出番。「室町は民衆の時代。そのエネルギーを時代行列に盛り込みたい」−。山路は、その時代を席巻した「風流(ふりゅう)踊り」に着目した。

 しかし、絵巻物や屏風(びょうぶ)に残る姿は、瞬間の姿をとどめるばかり。芸能は音と動きが命である。山路にひらめくものがあった。国の無形民俗文化財である草津市、老杉神社のさんやれ踊り。「衣装はすっかり変わっていますが、踊り、囃子(はやし)は、室町を伝えている」

 維新勤王隊列が鼓笛を奏するだけの、静かな時代祭。来年からは、囃子と踊りのにぎやかな室町時代列が、がぜん注目される。(敬称略)

[京都新聞 2006年10月3日掲載]