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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

時代祭 5

市民の手で紡いでこそ

 18列、2千人もの人々が織りなす壮大な時代風俗絵巻。ここには、100年の時を超え、時代祭を自分たちが支え、育ててきた、そして、この祭りをいつまでも伝えたいという、京都の各界各層の人々の誇りと熱い思いが溶け込んでいる。

市田ひろみさん

 「京都のキャラクター」で今、幅広いタレント活動を続ける服飾研究家市田ひろみ(74)は、世界各地の民族衣装の研究という視点から時代祭を見てきた。

 「眺めているだけで日本の服飾の歴史をたどれるんですよ。50年もたてば駄目になる衣装を維持、保存している平安講社の絶えざる努力には、ほんとうに頭が下がります」。そして「すたれる運命だった京都の伝統工芸に力を与えた役割も大きい」と、時代祭を評価する。

 市田には「おこしやす京都委員会委員長」という肩書きもある。各時代の婦人列が見どころといい「それぞれの時代の働く女たちの風俗がいい。考証も正確、特色もうまく出ていて貴重。江戸時代は髪形も含め特に面白い。そこらを見ると、時代祭の深さがわかります」と通り一遍でない見方をアドバイスする。

九條道弘さん

 1998年の時代祭パリ巡行を着想した平安神宮の宮司九條道弘(72)。厳格な宮中掌典職の家の生まれながら、放送局勤務の経験もある。新しい動きに敏感で、時代祭活性化にも思いをめぐらす。

 「本来は桓武、孝明両天皇の神幸列中心のお祭りなのだが、行列を、たとえば動く歴史博物館とするような考えがあってもいいのではないか。鎧(よろい)1つとっても、時代時代で違っている。ちょっと勉強して列を見ると、すごいためになりますよ」と教育・観光的側面に言い及ぶ。

 京都の三大祭の中で最も歴史が浅く、ともすれば軽んぜられがちな時代祭に、京都が、今学ぶべき心意気と斬新な知恵を見る人もいる。

上田正昭さん

 旧制中学2年生のころ、時代祭の行列を見て、名状しがたい感動を覚えたという京都大名誉教授で歴史学者の上田正昭(79)だ。

 上田は、パレードの重厚、壮大さだけに感動したのではなかった。「列は、時代を逆行している。なんということだろう」−。単なる時代行列ではない。現代に立脚して過去を顧み、未来を展望する、まさに歴史学の基本が、行列の中に見えるではないか。驚いた。

 「第1回目は、実は平安から時代通りに行列していた。ところが2回目から、この〈倒叙(とうじょ)〉の時代絵巻が登場するんですよ。だれが、どのように考えてこうなったのか…。こんな行列は、全国どこにもありません」と上田。今でも、このことを知った時の興奮を隠さない。

 こんな思い入れもあってか、上田は平成元(1989)年に「時代祭考証委員」に就任。時代を見つつ、新たな試みを行列に加えたいと考える。その結実の1つが室町時代列だった。

 「新しい試みが加えられていくことと同様、この祭りのすばらしさは、市民の手による、市民の祭りということなんですよ。運営するのは、平安講社という市内各地に組織された10の講社です」。戦争や災害、不景気など、時代祭にはさまざまな危機があった、しかしいつも市民の講社がそれを乗り越え、祭りは維持され、育てられてきた。このことに上田は、強く心打たれるのである。

 今年も、時代祭は22日に執り行われる。不易と流行の行列を連ね、その歴史に新たな一ページを加える。

(敬称略 「時代祭」のシリーズ終わり)

[京都新聞 2006年10月6日掲載]