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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

東山ライトアップ 1

光と陰 現代の幽玄

 東山通の街明かり、喧噪(けんそう)がうそのようだ。日が落ちて、東山が薄闇につつまれると、そこここを溶かしだすように、光が現れる−。瞬間、暗闇に沈んだ木々、そして伽藍(がらん)が夢のように浮かび上がる。ろうそくの火に、濃淡の陰は揺れ…まさに現代の幽玄とでもいうべきか。

 今年も紅葉の時が東山に訪れる。12年ほども前に本格化した山麓(さんろく)寺院の夜間特別拝観(ライトアップ)に、今年もまた全国から、数えきれない人が集まり、夜の東山は、今や、すっかり京都観光の定番となった。

 日本の伝統美術と現代芸術との関連をテーマに作品を書く作家久我なつみ(52)は思いがけず、清水のライトアップを美しいと思った。「そんなに、関心があったわけではないんですよ。それが、娘にすすめられて行ってみて、感心しました」という。

 仏教美術もよく知る久我は「お寺はいつの時代も最先端のアートを取り入れて、仏教思想を表現してきた。ライトアップもその流れですね。すべてというわけではないが、お寺をよく知っている人の手作りという感じがいい。梵(ぼん)字が浮かび上がったり、深い渓谷、木々が昼間とは全く違った様相になったり、夜ならではの魅力が、うまく出せている」と語る。その一方で「夜のお寺は、非日常でなければいけないと思う。できる限り、紅葉と桜の季節だけに限定してほしい」と注文も。

 日本に来て、夜のお寺を知って驚いたのは、フランス人舞台美術家エリック・デュラントー(40)。関西日仏交流会館「ヴィラ九条山」に滞在、歌舞伎の舞台など、日本の光と空間について勉強中だ。

エリック・デュラントーさん

 「夜のお寺は、昼間にはない親密さ、自然というものが強く感じられ、想像力をかき立てられる。このあいだ行った高台寺のライトアップでは、池に映り込む影と光に揺れる木々の様(さま)に深みがあって、心打たれた」と称賛する。

 ただ気になることもある。「ろうそくにひかれる私には、少し照明が堅く、強すぎて、光と影がはっきり分かれすぎていると感じられた。新しいテクノロジーを使うのは面白いと思うが、もう少し、月など自然の光とうまく調和するような工夫が必要ではないだろうか」。昼間の再現ではいけないと、アドバイスを忘れない。

 この季節になると「さあ京都だ」と、いつも心するのは、京都市出身で、世界的に活躍するライティングデザイナーの内原智史(48)。東山のライトアップには、草創期からかかわっている。

内原智史さん

 「京都の最も悩ましい部分でもあり、最大の魅力でもあるが、伝統と創生の精神を、光を使いどう表現するか。昼間見えている京都と夜の京都は画然と違うことを、お寺を舞台に、光と影で表そうと」。内原はライトアップにかかわる思いを語る。

 その象徴が、古いお寺とは矛盾するとも思われる青い発光ダイオード(LED)を駆使した、曼荼羅(まんだら)(青蓮院苔(こけ)の庭)だ。「京都では、新しいものと古いものは、物理的なスクラップ&ビルドで考えてはいけない。昼間に見えない京都の伝統文化の深さと魅力を、最先端の光も使って、夜の闇に現出したい」−。

 いよいよ秋本番を迎える東山の各寺院で、夜間照明の諸相を見、聞く。(敬称略 東山ライトアップは6回掲載予定)

[京都新聞 2006年11月6日掲載]