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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

東山ライトアップ 3

池に映る紅葉幻想

 高台寺方丈前庭の白砂上、リアルな光の躍動から一転、再び闇が…。と、目の前、紅葉が綾なす色々の雲となって、宙に揺れている。臥龍池(がりゅうち)にかかる紅葉が、光に彩られ水鏡に映り込んだ紅葉と交錯する。何とも美しいさまに、ホーッと心奪われる。同寺秋の特別拝観の圧巻だ。

 ねねの道から台所坂をたどる。光の階梯(きざはし)、低い石段の一段一段をほの暗く光が示し、寺へと導いていく演出。夜の高台寺は、昼間とは全く別の世界にあるようだ。

寺前浄因さん

 「一日中お寺に来てもらい、見てもらいたい。京都は夜行くところがないという声、建都1200年に何をするか。この3つの要請が、夜間特別拝観(ライトアップ)を行う背景だった」というのは、高台寺の夜間拝観スタートに携わった執事寺前浄因(49)。塔頭の岡林(こうりん)院と月真院の住職でもある。

 お寺が人を引きつける新しい表現の方法とは何か、と模索をしてもいた。「京都のデザイン関係の団体のイベントを庭を使ってやったんです。一晩だけでしたが、その時、庭の一部を照らしたのが、実にしっとりとしてよかった」と寺前。平成5(1993)年秋のことだった。

 「照明をすればどうなるかは、思案していた。高台寺にも、もっと開かれた寺にしたいという総意があり、仏教、信仰心を、光を使って広げようと、翌94年の春からライトアップを始めた」と寺前は振り返る。

 「立ち上げるときは、3日間は全く徹夜。お寺の立場を貫かなければならない。デザイナーと、けんかしながら作りあげたんです。明かりで人の心を揺さぶることができる、これはまさに宗教。評価されると思いましたね」と。

北山安夫さん

 高台寺の竹林で、直感的にライティングに目覚めたというのは、同寺専属の庭師北山安夫(57)。荒れたままになっていた高台寺の庭を復活させた実績がある。

 「夜間照明をやってみないかといわれたが、光のことは何も知らなかった。しかし、闇にも濃淡があるんだ。これは庭の陰陽と同じと思った時、できると確信した。月夜の竹籔(やぶ)のなかでひらめいたのでした」と思い返す。

 「妖変というか、かぐや姫の世界。月の光で照らされ、竹半分の暗さの美、浮かび上がる節の影、この世のものではなかったですね。自然のままで、手を下しえない美しい部分がある。このことを忘れず、人工の光をあてればいい」。自らの作品ではなく、自然のように見てもらえたらうれしいと、北山はいう。こうして10年近く、同寺の夜間照明を監修する。

後藤典生さん

 高台寺の夜間照明を点から線へと広げていったのが同寺執事で圓徳院住職の後藤典生(58)。

 「幽玄、わびさび、無常…この仏教の思想を、夜間照明で表そうと常に心がけている。その意味で、最高の傑作は臥龍池の映し込みです。この照明は、これからも、本当に大事にしていきたい。いわば間接の美で、仏教は間接に見る方が、直接にみるより真実があると言うのですが、これをみごとに具現した」−。後藤は、夜間照明が実に仏教思想をうまく伝えるのに役立ったという。

 「今や、京都の各地のお寺にライトアップは普及した。点から線に、そして面にと拡大している。これからは、ライトアップをどう京都の財源に活用していくか、その時代になった」。魅力ある寺院へのさらなる進化に、後藤の熱弁は尽きることがない。(敬称略)

[京都新聞 2006年11月8日掲載]