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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

東山ライトアップ 4

広大な境内に光の浄土

 華頂山の真っ黒なシルエットを背に、巨大な三門が浮かび上がっている。その奥、無数の行灯(あんどん)に囲まれ、照り映える本堂「御影堂(みえいどう)」からは、念仏礼拝の僧たちの読経が響いてくる。えもいわれぬ宗教的雰囲気が、夜の知恩院の広大な境内に満ちてあふれる。

 知恩院のライトアップは、周囲の寺院からやや遅れ、2000(平成12)年に始まった。夜も東山−と各お寺が夜の拝観を行っていく中、広大な境内を有し、観光名所でもある知恩院が、ひとり闇に沈んではいられなかった。

前田晃秀さん

 「もともと知恩院は観光寺ではない。夜までなぜ開けるのか、という声は強かった」と振り返るのは、ライトアップのスタートから携わる布教教務部係長前田晃秀(52)。

 前田は当時、通常拝観担当だった。いわば観光業者との窓口で、その時、昔は定番の知恩院などを組み込んだ定期観光バスのコースが、すっかり落ち目になっていると知った。あわてた。

 「何とかしないとなあ…と。京都観光全体が落ち込んだ時期でもあったが、さすがに知恩院でも危機感が出ていた。加えて、ミレニアムの祝祭ムードも手伝い、うちもライトアップを、という流れができた」

 担当を任された。「手探りでしたね。答えは結局、職員150人が総出で行う手作りライトアップだった」と前田。

 境内全体が7万5千坪(24万7500平方メートル)もある。三門、御影堂、友禅苑、方丈庭園が主な夜間照明の対象で、全体の10分の1程度だが、とにかく広い。この広さは魅力の半面、前田らの作業は大変だ。演出を依頼されている舞台美術家中川幸比古(55)も言う。「何をメーンにするか難しい。どうすれば自然のままに見せられるかを基本に、毎年が挑戦です」と本番(10日−12月2日)を前に、広大な境内を動き回る。

 知恩院ライトアップの波は、門前の地域にまで広がる。三条通からお寺近くまで続く「古川町商店街」。300年もの歴史があるというが、これまで事業で、特に同寺とタイアップらしいものはしていなかった。それが昨年から、協賛事業を始めたのだ。

松本明光さん

 「知恩院の夜間照明を応援すれば、商店街の振興にもつながる」と、確信する同商店街振興組合会長松本明光(78)。商店街の照明を延長し、ピーク時のぜんざい無料サービス(1日限り)を今年はさらに充実させ、参拝客に「門前商店街」であることを強くアピールする。「今年は、商店街の照明は8時ごろまで、ぜんざいは倍の600食を用意」。将来は夜間営業も視野に「知恩院とともに、をPRしたい」という。

 地元をはじめ、各方面で知恩院独特のライトアップが知られてきたと実感する執事安井良道(69)。「浄土宗にとって、宗歌にもあるように、月の光(月影)は特に大事。ライトアップは、それを感じ取ってもらういい機会。それに、お寺なんだから僧侶を見てもらわないと」と思う。

安井良道さん

 例年11月に一週間続いて行われる璽書(じしょ)道場の念仏礼拝を、期間中1回、御影堂で行うアイデアを一昨年に実現した。「80人の僧が一斉に念仏を唱える。これは感動します。お母さんを連れて来たいという人もいたり、若い人に評判のいいのがうれしい」と安井。

 今年は、12日に御影堂で初めてのクラシックピアノコンサートもある。「ライトアップを契機に、五感に訴える魅力的な知恩院を」と、安井は意気込む。(敬称略)

[京都新聞 2006年11月9日掲載]