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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

東山ライトアップ 5

苔庭に光の曼荼羅

綿貫真由美さん

 森閑とした薄明かりの境内。闇に沈む宸殿(しんでん)前「苔(こけ)の庭」の上には、ろうそくと無数の青い微光が曼荼羅(まんだら)を描く。そして、それらは、ひと筋の青い光へと集束し、闇夜を切り裂いて、はるか天空へとたち上っていく。門跡寺院青蓮院のライトアップである。

 同寺のライトアップは、第1回に登場したライティングデザイナー内原智史が、深くかかわり、寺の意向を聞きながら作りあげてきた。

 「青蓮院での仕事はいつでも、鳥肌がたつほど、ぞくぞくします」。内原の下で、7年前から青蓮院の現場で照明を手がける綿貫真由美(29)だ。

西山純敬さん

 「京都は、なんだか空気がちがう。闇の深さもある。この古い建物やお庭を照らすだけで、光と闇の中間のグラデーションというか、えもいわれぬものが浮かび上がってくるのです」と綿貫。「ポイント、ポイントに演出をかけていて、光の表情がいろんな角度で変わる。じっくり足を止めて見ていただいたら、神秘さをわかってもらえます」と力が入る。

 皇室とかかわり深い天台宗の「京都五ケ室門跡」のひとつ。どちらかといえば、観光客にはあまり縁のある寺院とはいいにくかった。が、昨年9月から3カ月開催した「本尊ご開帳」を機に、天空へのライト設置や曼荼羅を新しくするなどで、同寺のライトアップは、が然注目され始めた。

 夜の拝観が始まると、執事西山純敬(35)はてんやわんやだ。埼玉県出身。30歳の時、比叡山に入り、昨年のご開帳が縁で同寺へ。「いやあ、毎回期間中にある伝統産業青年会の展示や参拝者の安全対策で、ライトアップを楽しむどころじゃありません」。だが「去年初めて体験して驚きました。これを幽玄というんでしょうか。明るすぎない当寺のライトアップは仏教的意味も感じられ、最高ではないですか」という。

東伏見具子さん

 小人数で切り盛りする同寺では、ライトアップになると、奥方(門主夫人)東伏見具(とも)子(55)も華頂殿前の売店を担当する。「紅葉がきれいになれば、昨年には一晩3千人ということもあった。忙しいが、外国の方やリピーターが多い。じっくり見る人は七時台に見えるなど、はっきり傾向がでていて面白い」と参拝者の動向をしっかり把握。「ゆっくりご覧になること。幽玄な竹やぶもおすすめ」と、PR担当も買って出る。

東伏見慈晃さん

 青蓮院の本尊は、熾盛光(しじょうこう)如来。火炎を背にする日本三不動の一つ「青不動明王二童子画像」(国宝)も蔵し、同寺は光や炎とは縁が深い。10年前スタートさせた門主東伏見慈晃(64)のライトアップに対する思いは、宗教心を背景に並々ならぬものがある。

 「全体的に、当寺のライティングはともしび、またたきといったイメージなんです。闇の暗さの中に、光と影の濃淡、ぼかしによって非日常を味わえる雰囲気をつくった」とコンセプトを話す。「どんな形でもいい、いろいろな人に来てもらい、安らぎ、すがすがしさ、わき上がる力など、本来この寺が持つ魅力を感じてもらいたいという仕掛けです。お寺も、もっと社会にかかわっていくべきだと思っている。ライトアップが、宗教心に目覚めるきっかけになるならこんなうれしいことはない」と、12月3日まで続くライトアップの役割に期待する。(敬称略)

[京都新聞 2006年11月10日掲載]