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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

東山ライトアップ 6

西へ拡大 花灯路誕生

 秋から春、紅葉から桜へと季節の移ろいに合わせ、東山の名刹(めいさつ)」が、それぞれに趣向を凝らすライトアップ。夜も東山、の構想はみごとに支持され、今では京都観光になくてはならない年中行事となった。

 このライトアップの成功は、観光が京都あげての一大事業であるという、象徴的な行事に結びついた。それは、東山から西の嵐山へと拡大していった「花灯路(はなとうろ)」−京都全体が、一丸となって取り組む観光事業だ。

岩田カズヒロさん

 平成14(2002)年の第1回から京都花灯路にかかわった京都商工会議所の中西元(59)。京都府、京都市、京都商工会議所などで「推進協議会」が結成され、同プロジェクトの担当部長を務めた。「京都が一体となって観光事業を始めたんだ、と実感した。しかし、人っ子一人いない東山の真っ暗な路地、路地を見て、本当に観光客がくるのかなあと、疑心暗鬼でしたよ」。

 「各寺院がやってきたライトアップを、3月という季節はずれにやってもらった。観光で京都を盛り上げようという熱気が、市役所や府庁などから来ていた寄り合い所帯のスタッフの間にみなぎっていた」と思い返す。悪天候をよそに、花灯路は成功裏にスタートした。

 花灯路の名付け親でありアイデアを生み出した演出・プロデューサー岩田カズヒロ(58)。「もともとあるすばらしい京都の文化財に光をあてれば、あらたな魅力が生まれるということ。それも温かく、おだやかな光の演出。これは、各寺院の夜間照明が、証明してきたことだった」と。これからも風に揺れる行灯(あんどん)の採用など、新たな光と陰の魅力を提案し、京都一帯に広げていきたいと考える。

馬屋原宏さん

 ところで、こうして世界、全国の人を引きつける一方、すさまじい交通渋滞など、東山は観光の弊害でも際立つ。ライトアップでリードした東山区では、観光のいわば負の側面の解消も先陣を切ろうと、動きが活発化している。その一つが「東山3K(観光・交通・環境)協力金」。区内の社寺、商店街、観光関連の企業、事業所など38団体、一個人(匿名)が、資金を出し、東山の抱える三つの課題・3K解決をめざす。昨年秋、発足した。

 この事務局長で、区役所のまちづくり推進課長馬屋原宏(46)。「観光用トイレや交通誘導員の設置など地道な活動だが、一年で着実な効果がでている。地元一体となったきめ細かな対応の集積で、東山の宝である社寺、観光名所の価値があがっていく」。「ライトアップが全京都に広がったように、この事業を区民、そして東山観光のファンへというように、大きな輪にして京都中に広げたい」と熱が入る。

 東山の寺院が、十数年にわたって行ってきたライトアップは、京都観光そのものに大きな刺激を与えた。同時に、宗教施設としての寺院の役割にも、多くの人が思いを至らせるきっかけになった。

山折哲雄さん

 宗教学者の山折哲雄(75)は、ライトアップは逆説的に、日本人が忘れてしまっていた闇の深さをよみがえらせるということにつながったのではないか、という。

 「夜の寺院の魅力と同時に、闇の世界の恐ろしさ、わが身の闇をじっとみつめる機会になる。ただ、本当にすばらしい庭を見、自分の心を見つめ直すというようなマナーのいい参拝者につながる見せ方を、寺院に工夫してもらえれば」と語る。

 ライトアップに成功した各寺院。観光京都を背おいつつ、あらためて現代における宗教性というものに向き合っている。(敬称略、東山ライトアップ終わり)

[京都新聞 2006年11月11日掲載]