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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

京の師走

錦市場 1

 錦市場(いちば)−京の台所といわれる。その呼称どおり、プロから一般家庭まで、食にかかわるあらゆる要望をかなえるさまざまな店が、通りの両側に軒を連ねる。新年用の「ハレ」の食材を求め、集まる人たちでごった返す錦の年末雑踏風景は、京を代表する師走の風物詩。そればかりか「京の台所」は今、いや応なく観光面でも注目を集める。近年、年末と見まがう混雑が、観光シーズンには日常化してきた。

山本浩智さん

 こんな錦が、2日から初めて「京の冬の旅」の定期観光バスコースに組みこまれた。

 「全国の多くの人に、京にしかない錦の魅力を知ってもらいたい」。京都市観光協会の調整課長山本浩智(41)。京都市で商店街を担当、活性化策などを市場の若手経営者らと一緒に模索して以来、錦市場とは10年以上の付き合いだ。

 山本は、観光コースに組み込まれたといっても、今の錦の性格を変えてはいけないと考える。「錦は、正月用などハレの日の魚や野菜など、地元の人がちょっといいものを買いに行く市場でなくてはならない。錦には多少値が張っても、いいもの、本物がある。そこが魅力。だから、観光客一辺倒の市場になっては、逆に魅力が半減する」と。「時代の変化で、新しい店舗に変わらざるをえないにしても、あくまで地元と、食にかかわるものであってほしい」。山本の願いだ。

高橋英一さん

 年末に「錦で正月用の食材を」というのは、昔から京都やその近在の多くの人々のぜいたくで、その願望は強いという。「錦やったら、間違いない」−。この意識をリードするのは、錦に出入りする一級の京料理のプロや老舗料亭の存在だ。錦は、素材に厳しい世界的に知られた料理人たちから、長きにわたって変わらぬ信頼を得てきている。

 著名な高級老舗料亭の14代目主人高橋英一(67)は現在、包丁屋も含め、5軒ほどの店と取引がある。「代々の付き合いですから、毎日電話一本で注文できます。お互い何もかもわかっている。ちゃんとしたもん回してもらえるんです。それに、錦に行って店の人としゃべったり、何か変わったものはと市場中見て回るのは、何より楽しみ」と話す。

 ただ、要望もある。「錦にはええもんがある、という伝統。それに、安易にハイカラなことをせず、店頭に食材を並べる店構えと市場らしい活気を保ってほしい。そうすれば、いつまでも魅力を放ち続けるはず」。高橋は錦らしい市場の雰囲気にこだわる。

 正月やハレの日ばかりか、週に1、2回は錦に出かけ、なじみの店で買い物するというのは下京区の主婦田中三和子(55)。

田中三和子さん

 「東山で育って、昔は家の近所にお店はいろいろあって、そこで間違いないものが買えた。それが今残っているのは、錦なんです」と。「《きょうはどうですか》から始まる錦での買い物は、すばらしい。なにもむやみに高いものを買うわけではないです。なじみの店のご主人と、何をつくるのかというやりとりの中で、同じ食材でも、リーズナブルな部分を教えてもらえたりする。対面のよさ。デパ地下やスーパーでは決して体験できない」。そして「錦に行くと、いろいろ食材の知識も増え、結果的においしいものを作れるようになりますよ」と、年末の買い物を心待ちする。

 平安時代の魚市に端を発し、時代時代に「京の台所」として、その魅力を放ち続けてきた錦。今、どんな店がどのような試みをし、これから何をしようとしているのか。錦に生きる人たちに聞く。

(敬称略 錦市場は5回掲載予定です)

[京都新聞 2006年12月4日掲載]