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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

京の師走

錦市場 3

水島均さん、とみ江さん

 錦の人ごみをぬって、御幸町通を西に進む。南側、まるで雑踏の中にでもあるような店。間口4メートル、奥行き2メートルほど、実にこじんまりとしている。「どうぞ、食べてみてくださーい」。客に触れんばかりになって売り込みをするのは水島均(35)と、その母とみ江(55)だ。

 もともとは、かまぼこ屋の店舗。開店して、ちょうど2年が過ぎた。「錦近辺のスーパーで催事販売やってたんですが、そこがなくなるということで店の物件を探していたら、市場の組合のほうからご紹介がありましてね」。水島は飛び付いた。「そら、店持つなら錦、と思ってましたから」。

 水島は、かまぼこの作業場が奥にあった店舗そのままを利用、店の売り場は10平方メートルに満たないほどのスペース。そこに、乾珍味約8点、生珍味8点を台の上に山ほど並べ、狭いスペースに立って販売する。「プレッシャーもありますが、錦の珍味屋といわれるようがんばりたい」と声を弾ませる。

三田冨佐雄さん

 水島の店舗は、錦市場の各店で組織する「錦市場商店街振興組合」が展開する「テナントミックス事業」の成功例。この事業は、その名が全国に知れ渡るほどに難しくなる「錦らしさ」の維持のため、平成15年にスタートした「にぎわいプロジェクト」のひとつ。組合が、「食の錦」を貫くため考え出したいわば出店調整のアイデアだ。

 この事業を担当するのが組合の専務理事で、老舗川魚専門店の3代目三田冨佐雄(66)。本店は明治45年に、ちょうど水島の店の東側、御幸町通近くの現在地で創業した。

 「(テナントミックスの)根幹の考えは、いかに『京の台所』のイメージを崩さないか。それが、地元の人にも、観光客にも来てもらえることにつながるんです」。事業の発端は、空き店舗に、錦の人気に便乗したこれまでの錦とは違った業態の進出が見られたり、その懸念が大きくなってきたからだった。

 テナントミックスの仕組みは、ネットなどを通じ、あらかじめ出店希望者を登録、空き店舗ができると、プロジェクトが、弁護士や行政と連携しながら、希望者と家主との調整。あるいは業種アドバイスなどを行う。

 「後継者問題など、将来、空き店舗対策は大きな悩みとなる。錦らしさを損なわないためには、ますますこの事業が重要性を増す。そして、錦らしさとは何なのか、錦で店を出す者も意識を高めていかないと」と三田はいう。

 こうした錦らしさを守ろうとする組合の取り組みは、着実に根付いているようだ。

山本浩市さん

 堺町通を東に入った塩干物の店、江戸時代のままという店構えが目を引く。当主山本浩市(38)は6代目。早くに父を亡くし、そのいとこの中村寛(70)に助けられ、20歳の時から店を継いできた。

 「ネットも名刺代わりぐらいで、販売には積極的ではない。パック売りは可能な限りやりたくありません。何でも、お客さんの欲しいだけ小分けして売る。おやじはやってなかったが、焼き物なら温かいうちに渡せるよう、欲しい時間を聞いといて焼きます」と山本。錦が昔からやっていた心の行き届いた対面販売を徹底したいと思う。

 その古い店内には、年月を経た筆書きの品書きや値札がそのまま残っている。「あれは、書のうまい浩市の祖父(95)が書いたものです。古い漢字も使われていて、なかなかお客さんにも好評」と、伯母の山崎冨紗子(70)。古びた値札は、激変に見舞われようとする錦の中で、錦の本質を守ろうとする新しい動きの象徴のようにも見える。(敬称略)

[京都新聞 2006年12月6日掲載]