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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

京の師走

錦市場 5

高木壽一さん

 師走に入った錦は、15日からの「歳の市」の大売り出し、そして年末の年越し、正月用品の売り出しへと向け、一段と活気を増していく。錦にくる買い物客は、正月用の食材の日持ちを計算しながら、日を違えて少しずつ購入するケースが多いという。それもあって、大晦日(おおみそか)まで混雑は絶えることがない。

 50年も前から、錦に通い、香港にいる娘に「ふなずしを送ってやろう」と山科から訪れていた今竹千恵子(73)。「とにかく、錦は間違いがなく、信用できる。年末の混雑はもう当たり前と思っているので、気にならない」と、今年も正月用の鮮魚を購入するつもりだ。

 地元の買い物客の信頼を得て、にぎわう錦市場。「地元の人が買い物をする場であってこその錦」と言うのは、京都市役所時代から錦とかかわってきた京都市国際交流会館館長高木壽一(65)。

 副市長時代、イタリア・フィレンツェのサン・ロレンツォ中央市場と錦の提携の橋渡し役にもなった。個人的にも、以前から錦にたびたび足を運び、買い物をする高木は「店の人と掛け合ったり、欲しいだけの量を買えたり、錦での買い物は楽しい」と、その魅力を語る。

小島冨佐江さん

 そして「京都の人を相手にまじめに、いいものを売り、それが京都らしい食生活につながる−。この錦の日常的な姿勢が観光客をひきつけていることを忘れてはいけない。観光客を主なターゲットに売るような商売に変われば、たちまち魅力を失う」と厳しい。

 そうはいっても、錦は全国ブランド。人気はいや増し、観光客がひっきりなしに訪れる。錦市場を買い物の場としてなじんできた人たちが、この混雑に違和感を感じ始めていることも事実だ。

 京町家の再生に取り組む小島冨佐江(50)は伏見の出身。中京区新町通錦小路の古い呉服屋で生まれた建築家と結婚。20年来、近所にある錦は日々の買い物の場となった。

 「店の大きさも、道の幅もちょうどいいかげん。季節感もあるし、見るだけでもいい。お店の人とちょっと話をしながら買い物をする。嫁いだばかりのころは、何にも替え難い息抜きでした。子供ができてからは、店のみんなが育ててくれるみたいな雰囲気。ほんとうにようできた市場です」と小島。

 それが最近、変わってきたと感じる。「もの食べながら歩く観光客も多い。毎日が縁日状態で、買い物をゆっくりできない。店の様変わりも目立ち、目の前の観光客に一生懸命になってるなあ、という印象が強くなってきた」といい「変わるのは仕方ないが、変わり方が大切。もっとかたくなであることも必要ではないか」と思う。

宇津克美さん

 錦ブランドの登録商標化やテナントミックス、イタリアとの提携…、錦市場の先頭に立って、振興策を次々、精力的に展開する振興組合理事長の宇津克美(69)。活性化はいいが「観光市場といわれるようになったらあかん」と、思い続ける。

 「新しいもん取り入れるのは当然のこと。時代を先取りして手を打つ。だが、そのとき大事なのは、錦が何なのかその基本をしっかりさせることです」。「いいかげんのものは売らない、京の台所としてのステータス、矜持(きょうじ)を保ち続け、地元の人にも観光客にも評価されることが、錦のみんなが繁栄することにつながる。私はその形をつくって、次世代に引き継ぎたい」と話す。

 年末の活気と雑踏のなかで、錦は次のステージに向け、歩みだしている。

(敬称略)=「錦市場」おわり

[京都新聞 2006年12月8日掲載]