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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

京の年越し 1

終い弘法(上)

玉三郎さん

 その数、20数万人という。京都市南区、教王護国寺・東寺。露店が立ち並ぶその広大な境内に、早朝から、おびただしい人の波が押し寄せ、海となって満ちあふれる。12月21日、新年用の縁起物が、いっそうの派手やかさを添える「終(しま)い弘法」の混沌(こんとん)である。

 「そりゃ、すごい。よその縁日に比べ、いろいろな地方から、いろいろな人がやってくる。ただ売ったり買ったりではないです。客との情報交換で、同業者から以上にアイデアをもらえたりするんですよ」と小物の店を出す自称玉三郎(30)。5年ほど前から両親の店を手伝う。「終い弘法は、またいちだんと人が増え、特別です。新しい商品づくりの参考もいっぱい。がんばります」と気合が入る。

柴田秀雄さん

 これまで「弘法さん」には50年以上にわたって「いろいろの店を出してきた」という柴田秀雄(81)。この17年間は、シュロのほうきや亀の子タワシを売る。

 「ここに来て売るのがほんま楽しい。みんなよう世話してくれはる。命の続く限り、大阪から通ってきますわ」。値切りにかかる客との応対も堂にいったもの。「ほんまもんのシュロや。500円まけるけど、ほかでこんな得、あらへんで」と柴田。客「ほんまや。よそより安いわ、2つもらお」。

大西晴春さん

 季節の花に盆栽、正月用の松竹梅やセンリョウ、マンリョウなどを家族3世代が出て売りさばくのは、南区で園芸店を営む桝見ふゆ子(71)の店。50年以上も弘法さんにきている。20数年前、夫を亡くしてからは、長女の畑山初子(43)と2女の中村幸子(41)、それにその娘真菜美(17)も手伝う。「いろんな市に行くけど、終い弘法は全然違います。にぎやかやし、縁起もんなど店で持つもんがちがいますしな」と意気軒高な桝見。「いつまでたっても、母が1人がんばってます」と初子は笑う。

 大ベテランの昔変わらぬ味のある店もあれば、最近人気の新しい商売もある。足つぼマッサージ。岐阜市でエステサロンを経営する村瀬嘉代(42)が5年前から「弘法さん」で始めた。

孫の真菜美さん、桝見ふゆ子さん、二女幸子さん、長女初子さん(左から)

 「5、6人のスタッフと午前7時ごろから午後の4時半ごろまで、100人以上はマッサージする。名前はほとんど知りませんが、常連さんが増え続けている」と手は休む間もない。「実は、終い弘法は人が多すぎて、逆にお客さんが流れてしまう。でも、ここの場所は、すがすがしくて、やっていて本当に気持ちよくなる」と、東寺にぞっこんだ。

 「東京、九州からはざら、とにかく全国から人は来るし、1200を超える店舗…。こんな市はどこにもないですなあ」と話すのは大西晴春(68)。弘法さんの露店運営のすべてを仕切る東寺出店運営委員会の3代目会長。露店での商売に始まり50年間、弘法さんにかかわり、25年間会長を務める。

村瀬嘉代さん

 「インターネットでの登録制を導入し、さまざまな新しい業種を登場させてきた。弘法さんは、全国の市をリードする市として常に新しいことを試みてきた」との自負を持つ。「改革への思いがある限り、弘法さんはいつまでも存続し、いつでも新しい」。終い弘法は、大西にとって、次の弘法さんへの意欲をかきたてる1日でもある。

 いつもは静寂を極める真言密教専修の道場。この日の喧騒(けんそう)は、まさに非日常といえるかもしれない。だが、名状し難いほどの活気の中で、同時に宗教的雰囲気も濃密に感じられる不思議さ。東寺を舞台にしたバザールは、弘法大師有(う)縁無縁の区別なく、全国の人々をひきつけてやまない。(敬称略)

[京都新聞 2006年12月18日掲載]