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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

稲荷の魅力 1

門前のにぎわい

渡邊信明さん

 「お稲荷さん」で、全国に知られる伏見稲荷大社(京都市伏見区深草)。今年も初詣でには、正月三が日で約270万人もの人々が訪れた。2月5日の初午大祭など1、2月をピークに、同大社には年間1千万人もの参拝者が詰めかける。

 かくも人々をひきつける、稲荷の魅力−。

 お稲荷さんといえば、まず、門前のにぎわい、身動きできないほどの雑踏。そして、そこに立ち上る、あの寒スズメを焼く香ばしいにおいと煙が印象的だ。

本城忠宏さん

 「うちは、店内で味わってもらいます」。スズメを焼きながら話すのは、みやげ物屋などが建ち並ぶ神幸道(裏参道)で飲食店を経営する本城忠宏(47)。店内限定販売は、国内産にこだわるせい。「京都、兵庫、香川から仕入れています。昔からの常連さんも多いし、国内産で続けたい」。信用が第一。「スポットの観光客も大事だが、お稲荷さんに参って、その後、このスズメを味わってくれる変わらぬリピーターこそありがたい」という。

 伝統の工芸品、伏見人形。それは平成の稲荷の混雑の中でも健在だ。

 「実際に作っているのはもう2軒だけになりました」と寂しがるのは、伏見人形の窯元で、裏参道の店頭で販売する高畠喜兵衞(77)。後を二男の敏之(48)に託した。建設省の役人などを8年ほど経験して、家に戻ってくれた。

郷正清さん

 「おやじについて、今年から本格的に修業します」と敏之。「他の土ものの勉強もして、伏見人形を絶やさず、さらに進化させたい」と意気込む。その間「店の切り盛りは任せて」と胸をたたくのは、妻の和子(46)。「全国から何度も来てもらえる店になるよう、がんばります」

 裏参道で店を出す人々が、最近同様に感じることが、外国人と観光客の増えたこと。

 キツネのせんべい製造の郷正清(45)は工夫を重ねる。先代司朗(75)と店内に座り、日に7時間もせんべいを焼きながら、参道での変化を見逃さなかった。

高畠敏之さん(左)と和子さん

 「店頭に女子学生など修学旅行生が増えてきた。先々代が考案した辻占せんべいの中の川柳や短歌のかわりに、今風の占いを入れたら」と考えた。「女の子が多い時は、恋愛占い。景気が悪くなれば、前向きで、強めの言葉というように、店頭や時代の変化を感じながら、半年ごとに自分で占いの文句を考える」。稲荷以外でも評判だ。

 8年前に裏参道に茶店を出し、青年組織「稲青会」会長を務める渡邊信明(41)。昨年7月の大社の本宮祭の時、竹と氷のイベントを開いた。

 「稲荷のよさをもっともっとPRします。稲荷に、新しい感覚の人にも訴える魅力をつくりたいんです。お稲荷さんの協力も得て、稲青会のイベントを、これからも続けていきたい」。大学卒業後に経験したレコードエンジニアやイベント事業のノウハウを生かそうと考える。

村上理郎さん(右)と洋子さん

 お稲荷さんに鏡もちを納める村上理郎(49)は、裏参道、境内などの商店街25軒でつくる稲栄会の会長。もちやみやげ物などの店頭販売もする。大みそかの紅白歌合戦が終わるころからは、息つく間もない。「この1月、2月のにぎわいを、何とかほかの時期にも広げるにはどうするか。春夏秋冬、多くの人に清水(寺)さんより南にも来てもらうには…」。会長としての悩みが頭から離れない。

 これを受け、妻の洋子(46)は稲荷の自然にも注目してほしいという。「山の緑と鳥居の朱のコントラスト、夜には、境内で空を見ると星が降るよう。心と体をリフレッシュするお山巡りもすばらしい。信じる心も自然とわいてくる」とその魅力をPRする。  門前の商店街、本殿に、そして千本鳥居をくぐって、お山へ。さまざまに稲荷をおとなう人々のにぎわいは、時代を映しつつ、絶えずに続く。

(敬称略)

[京都新聞 2006年1月9日掲載]