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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

ものづくりを見せる 1 織の西陣

新旧の融合 技の奥深さ絹糸に込め

平林久美さん(左)と藤原弘子さん

 手機(てばた)(手織りの織機)の周りは、黒山の人だかり。シュー、コトン、シュー、コトン、軽やかな音に合わせ、織物が、ゆっくりと織りあがって行く。見物する人々の視線は、織機を操る織り職人の手先にくぎ付けに。まるで魅入られたようだ。

 西陣織会館=京都市上京区堀川通今出川下ルTEL075(451)9231=で、ほぼ年中行われている織り技術の実演風景である。京都が世界に誇る伝統産業・西陣織の「ものづくりの展示場」でもある同会館、年に50万人もの見学者が訪れる。

 「伝統産業の日(3月21日)には、この繭から生糸を紡ぎ、来場者に絹織物の原点を感じてもらいます」。この14日に卵からかえったばかりのカイコを前に平林久美(34)は言う。5年前から、絣(かすり)お召(めし)を織る実演を担当。同時に、絹織物を素材から見直そうと、デモ用に3年前から始まったカイコを育て繭から生糸を紡ぐ係も兼ねる。

 埼玉県の出身。脱サラし、京都の専門学校で1年学び、会館に来た。「一反織るのに3千個もの繭がいるのですが、繭一つから糸を繰っていく作業でも、織物がいかに大変な仕事なのか知ってもらえる」と平林。「見学の人に、絣はじめ西陣の絹織物がどれほど手が込んでいて、奥の深いものか、分かっていただけたらうれしい」

岡本眞紀子さん

 同館では、伝統工芸士の熟達の技も見ることができる。高級な袋帯を織る藤原弘子(70)。若いころからさまざまな織りを経験し、29年前から会館で実演を続ける。天皇、皇后両陛下の前で披露した時は、緊張のあまりヘラを落とし、美智子皇后に拾っていただいたという前代未聞のエピソードが宝。苦痛だった実演も、今ではもう快感だ。

 「結構、長い時間見てくれる人も多いんですよ。外国人もね。質問には、見本を見せてねえ、これはこうしてできるんですよと、説明しながら織るんです」。英語のやりとりも慣れたもの。百歳まで西陣織の技の神髄を見せたい、と笑う。

 綴(つづれ)を担当するのは倉敷の芸術系大学で染織を学んだ岡本眞紀子(29)。「京都にはいいものが普通にある。伝統工芸に携わる者には最高」。7年前に会館に来て、綴を始めた。「とにかくシンプルな織り、それゆえにごまかしが利かない綴の魅力はつきません。柄が入ったら、1日1センチ織れたらいい」と。大勢に見られながらの実演が、身に付く修業だ。

 職人ばかりでなく着物ショーディレクターの千秋芳子(59)も、西陣の技の奥深さに感じ入る。「帯の柄を合わせると、ずれることなくぴたりと決まる。着付けするだけで、いかに職人さんがすばらしい技術で織り上げているか実感する」と。仕事を重ねるたび、この感は強まる。

室志成子さん(左)と千秋芳子さん

 会館の強みは、常時5人の織り職人が担当するこうした実演に加え、製品展示と着物ショーや実技指導などの体験(有料)で、具体的に西陣織のすごさを実感してもらうシステムにある。

 「西陣織の技術を守り、伝承しようというのが、会館の狙いです。一方で、伝統のものづくりの技の公開は、京都観光の一翼を担う使命でもある」と館長の室志成子(63)は語る。35年以上も会館で、西陣織のPRにかかわってきた。それだけに、常に最新の技術を取り入れつつ伝わる、古くて新しい西陣の技には、並々ならぬ思いがある。「もう幻といってもいいような織り技術が、ここにはある。一人でも多くの人に、来てもらい、見て、触って西陣のすばらしさを実感してほしい」と言葉は熱い。

 京都は、ものづくりの街。伝統と先端の技が常に交錯し、その連綿たる繰り返しによって、特異な産業都市を形成してきた。その系譜は今、「ものづくりを見せる」ミュージアムや展示場として公開されている。芸に至るまで高められた技やものの数々。名所、旧跡に引けを取らない、京都の観光スポットである。

(敬称略)

[京都新聞 2006年2月19日掲載]