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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

ものづくりを見せる 2 伝統と独創

伝統と独創 真善美、基本… 創業の哲学を形に

小蜷ウ美さん

 西陣の織をはじめとする京都の繊維産業は、悠久とも思われる長い伝統を誇る。が、ただ守り伝えるばかりでなく、最先端の技術を常に取り入れてきた。明治初年、東京奠都(てんと)で瀕死(ひんし)となった西陣が、フランスに留学生3人を送り、西欧先進の織技法を導入、起死回生を図ったことはその典型だ。

 京都市左京区静市市原町。山あいにある川島織物セルコンの「織物文化館」=TEL075(741)4120=ここに、伝統と先進の西陣の歩みの結晶がある。

 「既に明治22(1889)年に、この前身の参考館というのが三条高倉にあったんです」と切り出すのは館長の森克已(63)。織物を知り尽くした大ベテランだ。正倉院の復元模造プロジェクトにも参加、1998(平成10)年から館を任された。

 「通常の展示は、真善美という創業以来の哲学を切り口に、西陣発祥の川島の、160余年にわたるものづくりを中心に見てもらう仕掛けです。時代ごとに、いかに新しい技術を取り入れつつ、皇居や迎賓館の内装など、日本を代表する織物を担ってきたかがわかります」と森。

森克巳さん

 学芸員の小蜷ウ美(37)は、京都のものづくりにあこがれ、川島に入社した。「明治期からの織物の製作過程、下絵、図案など、川島の一貫したものづくりをみてほしい。ほかでは絶対みられませんよ」と目を輝かす。

 展示とは別に、収蔵庫には、国宝級を含む古今東西の織のコレクション八万点が収められている。

 「何があるのか、蔵を調べつくす考えです。明治時代、海外の万国博覧会に出品された資料など、貴重なものが限りなくある」と小蛯ヘ興奮を隠さない。「織物の博物館、美術館、そして川島の歴史がわかるミュージアムとして、完璧(かんぺき)なものにしたい」と、森は館の将来を語る。(見学は要予約)

 JR東海道線の西大路駅前に建つワコールの本社ビル。その一階に「ミュージアム オブ ビューティ」と名づけられた博物館=TEL075(682)1153=がある。

北村潤子さん

 伝統と和装の印象が強い京都の繊維業界の中でワコールは、日本を代表する洋装女性用下着メーカーとして60年近く、独創的なものづくりの輝きを放ち続けている。ミュージアムは、その創業以来の哲学を伝える。

 館内の壁面に、43ものパーツに分けたブラジャーの展示がある。1つ1つの部品が、手作業で立体的に縫い上げられ、製品となる。生産技術担当選任課長北村潤子(53)は、この展示を見るたび「ここにワコールのものづくりの原点がある」と思う。

 39年も、ファンデーションやランジェリー作りに携わってきた。「私は不器用やったんですねえ。みんな先に進むのに…。でも、基本に忠実にと、それだけでここまできた」と北村。こうして積み上げた北村の技は、世界どこの工場でも同じ製品がつくれる、同社の基準として認知される。

須藤舞さん

 「やっと、私が何をすべきか、この歳になってわかりました」−上司の片岡重雄(58)と立ち上げた中国・広東工場のプロジェクトで実感した。「だれがやってもぶれない」マニュアル作りが、ライフワークに。

 一方、ミュージアムの奥には、シルエット分析装置など、同社人間科学研究所で使われている、自慢の人体計測装置が展示されている。

 「さまざまな実験データから、よそではできない新製品が生まれます」というのは、研究所の研究員須藤舞(30)。大学で心理学を専攻、人の体を計ったり、さまざまな実験で下着をつくっていく同社に興味を覚え入社した。「年齢、生活で体はみな違います。私たちが出したそういうデータをもとに、みごとに美しい製品に作り上げられるわが社の技術はすごい」と須藤。

 基本に忠実なものづくり、人の体と心を徹底的に調べつくす科学の力。ワコールを支える物心両面の神髄が、ミュージアムの展示から見えてくる。(敬称略)

[京都新聞 2006年2月20日掲載]