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ものづくりを見せる 3 酒造りの伏見

消費者のどんな需要にも応える

打越文雄さん(右)と高澤利一さん

 道沿いに建つ酒造会社独特の酒蔵、れんがの煙突−。伏見の街並みは何か懐かしい。

 伏見は、全国に知られる酒どころ。伏見酒造組合には現在、28の蔵元が加盟する。年中、日本酒が造られる四季醸造が常識の今、昔ながらの「寒造り」が行われているこの季節、暖冬とはいえ特に2月の伏見は、いわば「旬」である。

 「11月から4月まで、最高級の純米大吟醸などは、但馬杜氏(たじまとうじ)の手づくりで、造っているんですよ」。月桂冠大倉記念館の館長打越文雄(58)はいう。清酒のトップメーカーに技術者として入社。寒造りはもちろん、最先端の清酒造りに携わってきた。入社して35年を数える。

 開館して20年となる記念館=TEL075(623)2056、有料=には、さまざまな酒造りにまつわる用具が展示されている。その中でひときわ目を引くのが、ハイカラという表現が似合う古びたガラス瓶。月桂冠が明治時代、東海道線など旧国鉄沿線の駅で販売し、圧倒的な支持を得た瓶詰め清酒の見本だ。

小林壽明さん

 「防腐剤のサリチル酸は、昭和40年代にようやく禁止されたのですが、それより半世紀以上も早く、瓶詰めの防腐テクニックを確立。日本酒をどこでも売ることができるようにしたのです」と打越。

 月桂冠は明治42(1909)年、研究所を設立していた。それは、やがて科学的酒造りで先見的な地歩を築く礎となり、伏見の酒造りの名声は全国にとどろく。

 「わが社が、消費者のどんな需要にも応える、その志を見てもらえるのが記念館です。昔ながらの醸造法から今日に至る歩み、この記念館にはすべてがある」と開館当初から記念館に携わる高澤利一(55)が言葉をつなぐ。

山田滋さん

 旧蔵を活用したミニプラント「酒香房」(要予約)が、そのシンボル。いつでも同社の酒造りが見られる。特に今は、隣接する内蔵で、但馬杜氏の手づくりによる寒造りが、最盛期を迎えている。

 「最高の酒を任されている、この緊張感は、何年たってもなくならない」というのは、但馬の名杜氏小林壽明(66)。蔵人から数えると「もう50年近い」酒造りのキャリアがある。「16年前から、こちらの蔵に7人の蔵人の責任者として、毎年来ています。やりがいのある仕事ですよ」と小林は話す。

 伏見には、今年で370年という月桂冠のような歴史を持つ酒造会社もあれば、斬新な手法で全国を席巻した蔵元もある。カッパのキャラクターで知られる黄桜。カッパ関連の展示もあるユニークな資料館=TEL075(611)9921、無料=は、観光客を引きつける。

 「昔の言い方ですと、一級酒を二級酒の価格でというコンセプトが、首都圏で大層評価された」と語るのは、館長の山田滋(56)。「大正時代創業の若い会社なんですよ。だから独特のネーミングや瓶に代わるテトラパックの採用、品質本位を前面にした酒造りと、先進的にやってこれたと思う」と話す。

宮部芳男さん

 その言葉を証明するのが、12年目の資料館展示場。酒造りの道具と並び、大吟醸の「華祥風」から普通酒の「辛口一献」まで、さまざまな名前がついた各種の製品が展示されている。

 同社の先進性は、今やどこにもある地ビール生産に、京都でいち早く進出したことにも表れている。最近は、京都大と早稲田大の提携で話題となったビールも、同社ビール製造部が担っている。

 「うちのビールは、とにかく癖がない。一般受けします」。醸造からたる詰めまですべての工程を仕切る宮部芳男(41)。併設のレストランから見ることのできるラインで、汗まみれになって麦汁の煮沸や絞る作業を披露する。「同僚の曽野政廣(31)と2人だけが、ビール造りを任されている。責任と誇りを感じます」と宮部。出来上がったビールから、先取の精神を感じ取ってもらいたい、と思う。(敬称略)

[京都新聞 2006年2月21日掲載]