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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

はる・嵯峨嵐山 1 時雨殿インパクト

文化と最新技術 魅力生む京の底力

宮本茂さん

 京の西、嵯峨嵐山は、満開の桜がそろそろ散り初める。そんな風情の渡月橋の北詰めを、大堰(おおい)川に沿い西へ。その先、右手に和風の重厚な建物が見えてくる。昨年1月に開館した博物館施設「時雨殿(しぐれでん)」。京都商工会議所が主体となって設立した小倉百人一首文化財団が、嵯峨嵐山一帯で進める「小倉百人一首プロジェクト」の象徴的施設だ。

 財団の趣旨に賛同した任天堂の山内溥相談役の多額の寄付で建設された。百人一首に関する歴史的、学術的資料を収集、展示するただの博物館にはあらず。カルタから電子ゲームまで、他の追随を許さぬ同社の古今のエンターテインメント・ノウハウが注ぎ込まれた施設。派手なPRはない。が、1年余りで既に10万人が訪れた。

山口公生さん

 「よくある博物館ではなく、もっと独自な施設をつくりたいんだが、と山内相談役から言われたんですよ」と言うのは、マリオ生みの親で、ファミコンから今日のニンテンドーDSやWiiに至るまで同社のゲーム機ソフトの開発者として世界的に知られる同専務の宮本茂(54)。ちょうどDSを使って、大きな設備がつくれないかと、考えているところでもあった。

 「具体的なものはないままに、その構想を話すと、即座にいいね、と。それではというわけで、内容を考え半年、そして1年かけ完成させた。時雨殿に入れば、DSを使ったナビと床面の液晶大パネルで、面白がって百人一首が覚えられる。京都の観光ガイドも体感できる。先端の技術だが、年齢に関係なく誰でも使えるシステム。百人一首という伝統の遊びを、無理なく身近なものとして楽しんで学んでもらえる」と宮本。「まだまだアイデアはありますよ」とも。

中村多江さん

 「百人一首がどんなものか知ってもらい、お客さまが一首でもおぼえて帰っていただけたら、うれしい」というのは、時雨殿で入館者をもてなすアテンダントの1人中村多江(27)。ファミコン世代、小倉百人一首も最近はもっぱらDSで楽しむ。「文化は、新しいものと古いものが共存しあってこそです。時雨殿は、嵐山の新しい魅力になったと思う」と目が輝く。

 京都商工会議所から財団に出向している事業推進担当高木久美子(54)。4年前のプロジェクトの最初から携わり、時雨殿立ち上げに加わった。「すばらしい施設。京都でしかできない事業です。私もこの仕事を通じ百人一首のすごさ、奥深さに触れることができた」と振り返る。

 「専門家向けの博物館にとどまらず、体験型で楽しく触れ、遊び、学べるこの施設は、年齢に関係なく高い評価を得ている」と感じる。「オール京都で生んだ施設。ゆかりの伝統文化を京都企業の誇る最新のテクノロジーで発信する施設として、嵯峨嵐山、そして京都観光の新しいインパクトになったことは間違いない」と。

高木久美子さん

 運営会社「時雨殿」の社長山口公生(60)は、この事業のため任天堂の東京支店から呼ばれた。最初にやったのは、場所探しと、徹底していろいろな博物館を見て回ることだった。そして開館1年。「予想は6万人入るかどうかだったんです。初年度は特別なPRもせず、流れを見ようということだった。それが10万人ですから」と、喜びを隠さない。

 「5歳から95歳まで楽しめるというのは、任天堂のめざすところですが、時雨殿が、こんなにうまく年代の差が融合する施設になるとは予想を超えていた。それに、これほどリピーターが多いとは」と山口。「帰りがけに、歌を詠みながら子供が帰る姿には、正直、感動します。とにかく、来てもらい、触れてほしい。必ず百人一首のすばらしさがわかりますよ」−。山口の言葉は熱い。

 小倉百人一首ゆかりの伝統の地嵯峨嵐山、そこに誕生した時雨殿。いま、最新のエンターテインメント技術が、いにしえの雅(みやび)を、現代の風雅へとよみがえらせはじめた。(敬称略)

[京都新聞 2007年4月9日掲載]