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祇園祭 1 長刀鉾

“象徴”の誇りとしきたり受け継ぐ

石和一夫さん

 京都が暑さにうだる7月、1カ月間におよび繰り広げられる祇園祭は17日、そのピークを迎える。

 提灯とコンチキチンの囃子(はやし)に酔いしれた宵山の一夜が明けた朝。午前9時から、豪華な懸装品(けそうひん)をまとった32基の山鉾が京の中心街を巡る。そして夕闇せまれば、興奮と熱狂の神幸祭。豪壮な3基の神輿(みこし)が、八坂神社から四条河原町近くの御旅所まで練り、都心部を熱気で席巻する。京都のど真ん中に、終日、いつもとまったく違う空間が出現するのである。

 そんな中、くじとらずの長刀鉾は特別な雰囲気だ。祇園囃子、希少な懸装品、巡行開始を告げる生稚児(いきちご)による注連縄(しめなわ)切りの儀式。そして山鉾の先頭を行く姿…祇園祭の象徴というべきか。

室惠三さん

 「私はもう、あっち(あの世)に、鉾を持って行きたいとまで思てますねん」と話すのは、長刀鉾保存会の理事を務める石和一夫(83)。15歳の時から長刀鉾祇園囃子の囃子方として笛を吹き、鉾のすべてに通じる。今の大長刀の鉾頭はレプリカだが「氷のやいば」のような本物を見たことも。

 並々ならぬ誇りがある。「16日の日和神楽の儀式で、八坂さんに行って囃子を奉納するのは、長刀鉾だけなんです。服装からなにもかも、これだけ統制がとれているとこは他にないでっしゃろ」と石和。派閥や先輩、後輩の序列が厳しく不平等だった囃子方を戦後、近代的な組織に育てた自負がのぞく。

井上清次さん

 「今、そのおかげで100人近い組織になり、今年は新しい曲も復活させたり、今後が楽しみです」というのは、後を受けた四代目の囃子保存会代表室惠三(70)。「茶髪、長髪、ひげもピアスもだめ。伝統通り必ず鉦(かね)から始め、笛、太鼓に行くまでには10年。鉦の譜を覚えないと話になりません。もちろんけいこは正座」としきたりを受け継ぐ。こうして鍛え、巡行の日、辻(つじ)回しでテンポアップする「唐子(からこ)」の演奏が醍醐味(だいごみ)という。「囃子をどんどん早くして行く。車方ものってくるんですよ」と室、興奮がよみがえる。

 絢爛(けんらん)、華麗な懸装品で飾られ、先頭を常に歩む長刀鉾の風格は格別。そんな保存会の蔵には、貴重な文化財がある。「この絨緞(じゅうたん)て400年前のか、とビックリしました。何もかもえらい古い年号が書いてある。いいかげんには触れられんなあと、初めて入った蔵で思いました」と、懸装品など資材全般の担当をする理事井上清次(75)は、30年前を振り返る。

川那辺健治さん

 鉾町ではないが、四条通の商店街・四条繁栄会から保存会役員に。長刀鉾には子供のころからあこがれていた。「この役を、うらやましいという人も多い。7月1日には自然、精進潔斎するんですよ」と、奉仕が誇らしげだ。

 事務全般をサポートするのは、同じ理事で、保存会の向かいにある呉服卸商社の取締役川那辺健治(59)。入社早々から「写真撮影の担当で」保存関係の作業に携わった。「懸装品など文化財はすごい。世界に誇れます。今、250年ぶりとなる修理事業が続いていますが、今年は、復元新調された麒麟(きりん)の下水引(したみずひき)を楽しんでいただけたら」と。

 夜は人のいないビルが増えた山鉾の各町内。財団法人化など、今、山鉾巡行を維持、運営する努力や苦労は並大抵ではない。祇園祭を象徴する長刀鉾とても、同じことだ。

平田隆志さん

 「他の鉾にはない生稚児を毎年選ぶなど、確かに苦労もあります。が、長年この鉾とかかわり、鉾をよくご存じで、祇園祭を愛してやまない方々に評議員や理事など役員を引き受けていただき、見事に運営できています」と、5年目の保存会理事長平田隆志(62)は話す。前出の呉服卸商社の会長を務める。

 「新入社員の時から今日まで、鉾建てになると、手伝いに。これで、生まれも住まいもよそですけど、祇園祭は自分たちの祭りと実感するようになりました」と平田。「心浮き立つ一方で、理事長になり、ますます、歴史的に貴重で重要なものと痛感します。鉾と鉾町の誇り、伝統をぜひとも後世に伝えなければ」と、口元を引き締める。

 1日の吉符入りで始まった今年の祇園祭。その行事、伝統は、時代は変わり、人は変わっても、新たな工夫で脈々と引き継がれていく。日一日とムードの高まる現場を訪ね、祭りを伝え、つくる人たちと話した。(敬称略、「祇園祭」は5回掲載予定)

[京都新聞 2007年7月2日掲載]