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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

祇園祭 2 函谷鉾

心から奉仕「通い町衆」の意気高く

増田泉彦さん

 京都市下京区の四条烏丸では、金融機関のビルなどが次々と新しいビルに変わっている。今、にぎわうビジネス街として活性化する烏丸通を象徴する場所だ。その西側一帯に、毎年くじとらずで2番目の鉾として巡行する函谷鉾(かんこぼこ)の鉾町がある。京都の金融街となり、鉾を支えた町衆が早くに姿を消した。昭和41(1966)年に財団化。町に通う人たちが、町内会に代わるさまざまな仕組みをつくり、鉾の伝統を守ってきた。

 函谷鉾の維持、運営に携わるこんな人たちを、保存会では「通い町衆」と呼ぶ。

稲盛豊実さん

 「私は、よその人間。まさか祇園祭とかかわるとは…」と話すのは、伏見にある老舗酒造会社の社長増田泉彦(52)。函谷鉾の伝統を継承し、将来の役員候補を育てるため保存会が独自につくった「執行委員会」の委員長。「京都の伝統産業青年会にいた時、函谷鉾の伝統を継承していくのに、何かできれば」と、会に参加した。平成3(1991)年のこと。

 執行委員会には同青年会や京都商工会議所、JAの青年組織に関係する有志ら16人が加わる。「蔵の中に、何がどう置いてあるかまでも覚えないといけない。ちまき売りに交通整理…。裏方として、鉾運営のいろいろな部分にかかわる。これで、町衆のやってきた鉾の運営、伝統、しきたりを身につけていくのです」と増田。「大変だが、今では祭りの間中、連日ここに詰めるのが、楽しい。鉾じまいまでやり、今年も無事奉仕できたぞ、という時の感動は、ちょっとないですから」と。

櫻井忠弘さん

 函谷鉾町に拠点を構える企業は、オーナーを先頭に町内の一員として鉾を支える。

 鹿児島県出身で、24年前、同町内に本社を置いたビル賃貸会社経営の稲盛豊実(66)。「函谷鉾の町内で仕事をさせていただくからには、できるだけのお手伝いを」と思い続けてきた。社員ばかりでなく、関係する財団等の職員も募って祭りを手伝う。今年、保存会副理事長に選ばれた。

 「まだまだ、もともとの町衆の方のようなことはできない。が、祭りを楽しむばかりでなく、どう鉾を後世に伝えていくか、その方法は何があるか、など意識するようになってきました」という。

林国夫さん

 八坂神社とも山鉾町とも関係ないが、自分の家の物干し台から山鉾を見て育った保存会の理事櫻井忠弘(71)は、30年以上も函谷鉾にかかわってきた。もちろん祭り好きもあるが「函谷鉾のお手伝いするようになったのは、義務感もあった」と振り返る。

 鉾町に本店を構える信用金庫が現在地に移転した時、その総務課長だった。33年前のこと。「当然、家を移っていかれる方がある。そうか、ここに店を構えるということは、それまで住んでいた人の代わりに鉾を守っていくことなんや」とつくづく思った。もう函谷鉾は命。信金にいる間、17日は有給休暇を取り、必ず奉仕を続けた。鉾を背景に、囃子(はやし)方の二人の息子と一緒に裃(かみしも)姿で写した写真は宝だ。

御池吉三さん

 その囃子保存会には「嘉多丸(かたまる)会」という名称がついている。財団が発足した時に結成され、同鉾の稚児人形から命名された。保存会に名前があるのは珍しく、函谷鉾の囃子に対する誇りと愛着を象徴する。会長の林国夫(72)は18歳で、囃子方に加わった。「戦後のことで、メンバーは少なくなっていましたねえ。それと比べれば、今は小学1年生から74歳まで73人と、相当充実しました。保存会役員や囃子方の紹介を主に入会してもらい、後継者は、何の心配もなく、鉾の伝統継承の大きな戦力です」と、自信を見せる。

 「古いもの、伝統をきちんと継承しつつ、前に進まないといけない。これほど難しいことはないが、新しい人にも中に入ってもらい鉾をいつまでも盛り上げていきたい」と話すのは、昨年、前理事長の急逝を受け函谷鉾保存会の理事長になった御池吉三(76)。祇園祭の最中、7月14日に函谷鉾町で生まれ、育った。一時、勤務の都合などで、町からも祭りからも離れたが、定年とともに、祭りに再びかかわる。「祇園祭に奉仕することを心から喜ぶ気持ち。祭りが心底好きという思いさえあれば、どんなに時代が変わっても、よそからの通いでも、さまざまな工夫で、函谷鉾を明日へ伝えていける」−。「通い町衆」の心意気がはじける。(敬称略)

[京都新聞 2007年7月3日掲載]