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祇園祭 3 南観音山

住民結束温かく 老若男女区別なく

木村正之さん

 百足屋(むかでや)町−。

 京都市中京区、新町通を中心に北は蛸薬師通、南は錦通にはさまれた地域。細い路地が何本もあり、無数に足のあるムカデのようと、その町名がついた。くじ取らずで、毎年、山鉾巡行の最後を受け持つ曳山(ひきやま)・南観音山の町内である。

 この町内、町家が軒を連ね、山鉾巡行を見るのにふさわしいスポットとして最近、人気上昇中。しかも、宵山の16日夜遅くに行われる「あばれ観音」という伝統の儀式も有名に。呉服関係の自営業者も多く、町民あげて山を盛り上げる町内会主体の運営は、最近の山鉾町では希少だ。

 「16年前、時代の変化に合わせ、体制ががらっと変わったんですよ」と、南観音山保存会の常任理事木村正之(66)は言う。「それまで3人で大変な負担だった行事(役員)を12人に細分化し、心得帳も、その担当ごとに細かく再編したのです。いわばマニュアル化で、誰がなっても間違いなく仕事ができるようにできています」と。

北川稔子さん

 行事役をした父親の勧めで、20歳で囃子(はやし)方となり、祭りに深くかかわりはじめた。刺繍(ししゅう)職人の技術を生かし、懸装品(けそうひん)の修理、新調も一手に引き受ける。「新しい時代に合わせた仕組みはできたが、細分化の欠点もある。いろいろやってきた経験を生かし、できるだけ全部のことを見るようにしています」と木村。役割を自覚する。

 さまざまに厳しい制約のある祭りの行事だが、南観音山では、時代の変化を実に自然に溶け込ませているように見える。たとえば、女を乗せなかった山を、早くに開放した。囃子方にはすでに6人の女性が参加している。

 「女だからとか、女でもとか、そんな気持ちはそれほどなかったですね。ものごころついた時からけいこを見ていたし、自然な形で参加しているうち、囃子方に」と会社員北川稔子(としこ)(24)。10歳から南観音山で鉦(かね)をたたいた。数年前からは、笛を吹く。「留学をしましたが、生まれ育ったこの町並み、祇園祭は私にとって自慢であり、誇りです。これからも、みんなでこの伝統を継承できれば」と言い、後輩の指導にもあたる。

北川道裕さんと妻佳代子さん

 「私が囃子方のお世話に行く時、一緒に町会所に連れて行っていました。待っている間に覚えてしまったんですね。強制も勧めもしていなかったんです」というのは、母親の佳代子(52)。「影の役というか、祭りでは男性ばかりか女性もそら、忙しい。でも、子供をほっておくわけにいかず、連れて行くしかない。町内には、祭りを、男女の区別なくみんなでという雰囲気がある。そんな環境で娘も自然に習って、自然に山に乗って演奏していたいうことです」−。女囃子方の「誕生秘話」だ。

 「祇園祭は、男も女もない、そりゃもう家族総出です。7月はいろいろ準備も重なり、さあ大変。でも、終わった時の寂しさで、いかにこの1カ月が楽しかったのかわかります」というのは、夫が保存会で会計担当の理事をする岩崎希見子(50)。「会計は1年中が仕事。苦労はありますが、保存会の中に入って仕事をしてみたことで、外からでは絶対わからない町内の人たちの温かみ、目的に向けた結束の強さを知りました。祭りは、ほんとうにプラスばかり」。百足屋町にいてよかったと、つくづく感じる。

岩崎希見子さん

 「男女も老いも若きも区別なく、楽しんで祭りに参加してもらえたらいいんです」というのは、南観音山保存会理事長の北川道裕(54)。町内から住民がいなくなる大方の他の山鉾町とは違い、いまだに50軒近い住民が暮らす百足屋町ならではの住民の結集力を、山の継承に結びつけたいと思う。

 「自営業以外に、勤め人も増え、企業の進出もある。昔のままの、硬直したやり方では、時代の変化に耐えられない。新しくした体制もそうですが、いつまでも南観音山を伝えていくには、今後も、誰もが何かで、祭りに参加できるような柔軟な形をとり、何より参加を面白く思えるようにすることが大切」と。

 山鉾巡行の日、南観音山は柳の大枝を差して巡行する。山が動くたび、あるいは風に吹かれ、大枝はしなやかに揺れる。それは、百足屋町の人たちの、山継承への柔らかくも強靱(きょうじん)な思いと重なるようにも見える。(敬称略)

[京都新聞 2007年7月4日掲載]