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祇園祭 4 神輿渡御

全国に誇る神事 4度の興奮に沸く

三若神輿会の舁き手練習風景(2007年6月17日、八坂神社で)

 「ホイット! ヨイット!そりゃ! そりゃ!」。激しい掛け声。神輿(みこし)の担い棒をかつぐ男たちが、歯を食いしばり、汗にまみれステップを踏む。独特のリズム。もうもうと砂ぼこりが立ち上る。本番を前に、八坂神社で続く祇園祭神輿担ぎの練習風景だ。

 山鉾巡行の華やかさに隠れているといえばいいか、祇園祭に、神輿の神事があることを知らない人は多い。鉾とは別に、2千人近い人たちの手で、祭神の分霊を乗せた3つの神輿の渡御が、1100年以上もの間繰り返されてきた。17日の神幸祭と24日の還幸祭。この神事には、山鉾巡行とは異次元の、過剰なまでの興奮がある。

清水武夫さん

 「2トンの神輿がねえ、肩の上でおどるんです。軽々と、何も重さを感じない。神輿と一体になった一瞬。涙が出てきますよ」。目を輝かせて話すのは清水武夫(68)。3つの神輿の内、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の分霊を乗せる「中御座」という三若神輿会(さんわかしんよかい)の神輿を舁(か)いて50年。冒頭の練習では、厳しい指導役を担う。

 「懸命に練習し、興奮に沸き上がるいい神輿を見せたい。若いもんには、7月17日が私らの正月や、と言い聞かせます。これから1年、健康で元気に働けるよう、八坂さんに奉仕させてもらうんです。ここにおるもんは、命を賭けるほど神輿の好きなもんばっかりですわ」と熱い。

 「祇園祭は、何というても神輿が主役です。実は、神輿を迎えるための山鉾なんですよ。祇園祭ほど立派な神輿は、全国どこにもない。それが知られていないのが残念」と、同じ三若神輿会の幹事長荒田政明(58)が言葉を継ぐ。

荒田政明さん

 三若では、有名な「弁当打ち」という、男だけによる、弁当づくりが今も変わらず続く。伝統の継承について、山鉾に負けず劣らず、きわめて厳しい。

 「たとえば装束。決して他のものと一緒に洗濯はせず、来年まで、タンスの一番上で保管するのです。時代の流れにのっとって、新しいものは取り入れていかなければならない。が、習わしや言い伝えは、決して変えてはいけない」と荒田はいう。

 3つの神輿会のうち、最も新しく舁き手として加わったのが、錦神輿会。神幸祭、還幸祭ともに最後に巡行する西御座(八柱御子(やはしらのみこ)神)の渡御を受け持つ。錦市場の青年部会が中心だ。

初田和久さん(右)と藤井輝男さん

 「まだ、40年ほどの経験。最初は縄を使った神輿の組み立ても知らないほどでした。私自身、25歳の時に、わけもわからず舁かせてもらい、いっぺんにとりこになりましたが…」と思い返すのは、錦の幹事長初田和久(61)。

 「西御座は、3つの中でも大きくて、重いんですよ。練習し、見事に舁こうと市場のみんなが一体になる。いい伝統になってきました。2つの神輿を見習い今年もしっかり奉仕したい」と、前青年部会長の藤井輝男(41)。

 三若、錦の二神輿会が、その技に舌を巻くのが東御座(櫛稲田姫命(くしなだひめのみこと))の四若(しわか)神輿会。追随許さぬ見事な舁きぶりで魅せる。一例が、石段下などで披露する、「振り」もなく高い位置のままで神輿を回転させる「差し回し」。極めて高い技術が必要とされる。

 「うちには、昭和になってから子供神輿の若御座ができ、小さいころから舁いているのが、うまくできる一つの理由。それと、みんなが一体になって奉仕するという気持ちの強さ。この結束力があれば、勝手に神輿は動くんですよ」と、四若神輿会会長の津田正次(66)がいう。

津田正次さん(左)と美登里さん

 女は触れられない神輿だが、昔から東御座では、女衆(おなごし)が神輿の後に付き、掛け声で舁き手を盛り上げる。強い一体感を示す好例だ。「女も、あの興奮は味わいたい。それに、主人や子供になんかあったら大変。見届けないと心配ですやろ」と毎年参加する津田の妻美登里(65)。「四若が担当する2回の神輿洗い、神幸祭、還幸祭、と4度とも付いて回ります。還幸祭で八坂さんに戻り、最後の踏ん張りどころになると、みんなようやらはったなと感動し、思わずえらいやっちゃ、えらいやっちゃと、はやしています」。

 「この興奮をもっと広げるには、3つの神輿会が、それぞれの特徴を大事に、ますます競い合うことです」と津田。祇園祭の山鉾同様のメーンイベントとして、3基の神輿渡御は、ますます注目されていきそうだ。(敬称略)

[京都新聞 2007年7月5日掲載]