メニュー
 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

祇園祭 5・完 また明日へ

「神人和楽」の陶酔と熱気 伝える

中川文一郎さん

 1100年もの悠久の歴史を経て、年々歳々、変わることなく人々を引きつけてやまない祇園祭。コンチキチンの軽やかな囃子(はやし)と絢爛(けんらん)豪華な懸装品(けそうひん)の山鉾巡行、そして輿丁(よちょう)(舁(か)き手)たちの熱気と興奮が奔騰する神輿(みこし)渡御−。この2つを柱に、数々の行事からなる祭りの魅力は、日々新たに、いつまでも尽きることがない。

 この魅力は、祭りにかかわる多くの人々の努力と愛着によって、醸成される。

 「何があっても、とにかく完全に昔のままで継承していきたい。そのため、募財活動を中心に一生懸命ご奉仕をしておるんです」と八坂神社総代中川文一郎(91)はいう。山鉾巡行の復活や神輿維持に多大な貢献をした同神社の氏子組織・清々講社の幹事長を務める。「特に囃子は大事ですよ。あの音色は、京都の夏を代表する風物詩ですから、全国に広げていきたいものです」と話す。「個人的には、祭りと大衆のつながりという意味で、ちまきを鉾からまいていたのを復活できればと思う。祭りの雰囲気が盛り上がるんですがねえ」と。

深見茂さん

 「母親が、戻ってくる黒主山の鈴の和音を遠くから聞きつけましてね、『お帰りやした』と外に出る。すると、ほんとに山が帰ってくる。これをみんなで拝んで迎えたものです。浴衣着た近所の女の子も、別人のようにきれいになって、家のしつらえ、食べ物、祭りになると何もかも雰囲気が変わりましたねえ」と、祇園祭山鉾連合会理事長深見茂(73)は思い返す。

 「瞬時の美意識と遊びの精神。そして無意味なことにも意味がある。これが人生で大事なことと、この祭りから教わったように思いますね。子供のころに、山鉾の手伝いをしなかったら実感できなかったでしょう」と自分の経験をもとに京都の精神風土にとって、いかに祇園祭が大きな存在であるかに言い及ぶ。

植木行宣さん

 「山鉾町のそれぞれの保存会が、独自の力で『おれが祇園祭だ』というプライドを持ってもらわないと、この祭りはできない。けれど、てんでんばらばらに、みんながお山の大将になってもらったのでは、成り立たない。それぞれの特色を生かしながら、協調してもらう、この調整が連合会の役割です」と深見。

 同連合会で審議委員をする民俗学が専門の植木行宣(75)は「たどってきた歴史的背景も含めて、祭りは重要で、簡単に変えてもらっては困る。そのあたりをよく調整してほしい」と、連合会の役割に期待する。文化財の認識も希薄だった昭和40年代から、山鉾の保存にかかわってきた。「歴史を見据えた保存、修理が大切。それと付随する手仕事の文化も一緒に継承してもらえたら。連合会を中心に、世界の祇園祭という誇りにふさわしい取り組みを望みたいですね」と話す。

吉川和男さん

 3基の神輿も個々の切磋啄磨(せっさたくま)と協調がテーマだ。

 「各神輿には各社各様の担ぎぶりがある。それぞれの特徴が最高に出る神輿になるよう、各神輿会が競い合うのが大事」というのは、三若(さんわか)、四若(しわか)、錦の三神輿会(しんよかい)で構成する「八坂神社三社神輿会」の会長吉川和男(70)。「昔のように、三若と四若が、ことあるごとに対立するというのではなく、差し上げ、差し回しなどそれぞれの神輿が、高度な技をまず磨く。そして、各神輿会の枠を超えて、技術を教えあい、そろって披露できるようなことになれば最高。六年前の八坂石段下の『そろい踏み』から雰囲気はできてきた」といい、三社合同の裂帛(れっぱく)のパフォーマンスを通じ、神輿の宗教的意味にも気づいてもらえるだろう、と話す。

森壽雄さん

 「京都という大都会の真ん中で、かくも雅(みやび)でかつ勇壮な行事がにぎにぎしく行われることは、感にたえませんね」と話すのは八坂神社宮司の森壽雄(59)。

 「動く美術館の山鉾といい、神輿の興奮といい、まさに神人和楽。祇園祭は、神様に楽しみ、喜んでいただき、強いご神意で災いから守ってもらいたいという祭りのもつ本質が見て取れます。それにしても、よくこれだけ長い間、変わることなく続けてこられたもので、祇園祭にかかわる人たちの敬神の念と誇りが、いかに強いかということです」と、この祭りの根底にあるものを語る。

 山鉾町で、コンチキチンの囃子は、いよいよ音色を高め、まもなく鉾建てそして宵山へ、祇園祭は一気に17日のピークを迎える。今年も、陶酔と興奮の時がやって来る。(敬称略、「祇園祭」終わり)

[京都新聞 2007年7月6日掲載]