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五山の送り火 3 船形万燈籠

鉦合図に炎浮かべ 先祖に念仏捧げ

山本幸信さん

 コーン、コーン、コーン、コン、コン、コンコン−。京都市北区の西賀茂船山(西賀茂山、明見山、313メートル)の山すそから、数えて49回、独特のリズムで鉦(かね)の音が響き渡る。すると、待ちかねたとばかり、船山で一斉に火が走る。船底から帆柱へと下から上へ、瞬く間のこと。まるで生きもののように、西へ向かう帆かけ船が姿を現す。「船形万燈籠(まんとうろう)」の送り火だ。

 「最初は準備ができたかを聞く午後6時半の一番鉦、同8時13分には、点火の元火『ないしょ火』用意の二番鉦、そして点火を告げる三番鉦、やるたびに緊張します」と、船形万燈籠保存会副会長の山本幸信(51)は言う。船形独特の点火の合図を担当し、今年が3回目になる。

上嶌貞雄さん

 「ゆっくり打ち始め、スピードを次第に早める。仏教の半鐘のたたき方に準じたもので、各番とも49回ずつ。特に点火の三番鉦はちゃんと響くよう、山に向かってタイミングを計りながら打ちます」。各回2分近く、鉦をぶら下げた左腕を伸ばし打ち続ける。「自分の鉦でスタートするわけで、そら重責です。昨年、新調された鉦は、少し重くなりましたが、今年もしっかり務めたい」と話す。

 「そら、鉦は49回はたたかんと、山に聞こえへんよ」と保存会年寄り(OB)上嶌貞雄(70)がこれに応じる。まだ、今の割木(わりぎ)の火床ではなく、松明(たいまつ)で船形を浮かび上がらせていたころのことを知る。

藤井國一さん

 「数え18歳からの『若中』にいれてもらって2、3年だったですか。当日のお昼ごろ、天秤(てんびん)棒で前と後ろに3個ずつ、計6個の松明をぶら下げて、西方寺境内から火床まで運んだもんです。重さは40キロぐらいあったかな」と。「最近は、割木はトラックで運ぶ。昔はきつかった。後で柴(しば)も運ばなあかんかったんです。コップ酒で勢いつけてやりましたが、なんちゅうても力があったんやねえ」と笑う。

 「それにしても、山の夕立、雷は怖かった」と、同じOBの藤井國一(62)が話をつなぐ。若中頭として一番重要な帆柱の先端を担当した時、恐怖を経験した。「雨宿りで、身を隠すところがない。バリバリっ!とくると、青いシートに潜って身震いしてました」と思い出す。

山本恵一さん

 「それにしても、若い時はそうでもなかったんですが、今の年になると、実に先祖送りの行事なんだと、思うようになりました。特に、送り火の後務める六斎念仏で、その思いが強くなります」と藤井。上嶌同様、山の係は卒業して、もっぱら送り火の後、ふもとの西方寺で催される六斎念仏を担当するようになっての感慨だ。

 西方寺の六斎念仏は、送り火の後、先祖供養を締めくくる重要な行事。船形万燈籠保存会の有志で構成する西方寺六斎念仏保存会のメンバー14人(鉦5人、太鼓9人)が継承する。同六斎念仏は、境内のかがり火を囲んで白装束の会員が、質素な振りで、太鼓や鉦を念仏に和すだけの派手さの全くない希少な干菜(ほしな)系六斎念仏。国の重要無形民俗文化財に指定されている。

川内哲淳さん

 「今は送り火と六斎念仏は別の係になりましたが、ぼくの場合は、火をつけて15分ぐらいしたら、山から急いで下りて、さあ今度は六斎や、とあわただしかったですよ」というのは六斎の太鼓のリーダー山本恵一(54)。「六斎念仏は、おじいさんがやっていた子供の時から聞いていて、自然に身についています。私の子供も同じなんですよ。六斎は、ここに生まれ育った者の宿命というか、まさに誇りやと思っています」と言葉を継ぐ。

 16日夜、西方寺の檀家(53軒)の人たちは、火床が真っ正面に見える境内近くの場所に集まり、点火を待つ。「点火されますとね、すごい火の躍動感。生きてるように、火が動き、船ができあがっていく。みなさん感動されます」と同寺八十九世住職の川内哲淳(51)。送り火と念仏の保存会会長を兼ねる。

 「鉦を合図に、松明で次々火をつけていくという独特の点火方法で生まれる送り火の感動。そして、その後に続く、実にしんみりとした六斎念仏。ご先祖さまをお送りし、お帰りになったことを実感してもらえるすばらしい行事。ここの送り火ならではの魅力です」と川内は話す。

 船形万燈籠は、同夜8時15分点火の予定。(敬称略)

[京都新聞 2007年8月8日掲載]