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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

おこしやすの心 1 迎える

「ほんまもん」を貫くことこそ大事

南隆明さん

 新しい京にふさわしい、いや、あんなもんいらん−。激しい景観論争の中で誕生したJR京都駅ビル。経緯はともあれ、京都への観光客の多くを、まず迎えるのがこの施設。JRの駅舎、ホテルにデパート、劇場、そして多様な空間を有する。平成18年度は、3800万人もの人が訪れた。

 京都市が先に発表した昨年の観光客アンケート調査でも、駅ビルは京都市内訪問先の12位に。にぎわいの場所としては先輩格の四条河原町や伝統的な名所の東寺、平安神宮などをしのぐ。9月に10周年を迎えた同ビルは、既に京の新名所の印象だ。

平井義久さん

 京都駅ビル開発社長南隆明(63)。実績に手応えを感じつつも「さらに何ができるか。ソフト面の充実が課題です。これからが正念場」と心を引き締める。

 外観は、いわゆる京都らしさとは無縁。だが、このことに南は思うところがある。「このビルが国際コンペで選ばれた時、イメージも構造上も、駅ビルには京町家の坪庭的なものがあるとの評価を受けた。その通りで、直接ではないが、ビルの中で季節ごとの風を感じられる。木枯らしが通り抜け、雪も舞う。京の街に自然に入っていける工夫を実感できるんです」と。

高岡一彦さん

 「これまでの10年はいわば試運転でした。お迎えする観光客に京都だなあ、と感じてもらえる場所として、一方、京都の伝統と現代性を、地元に、全国に発信する装置として、京都の街に次の10年でどう溶け込ませていけるか、それが私の役割です」と南。歴史に裏打ちされた「ほんまもん」の名所へ、あらたな挑戦を心する。

 駅ビルから始まる京の街では、さまざまな魅力が迎える。その一つが伝統的な食文化を中心とした名産品だ。

金下紘子さん

 「観光に来た人に、一過性でものを売ってはいけない。お土産こそ、伝統と創造という京都のものづくりの特徴を知ってもらういいきっかけになるんです」と力説するのは、京都の代表的な食品、工芸品の業者175社で組織する京都物産出品協会会長平井義久(67)。京漬物大手、西利の会長でもある。

 「にせものはいかん、安物はいかん、そして適正価格−これを、全国のリーダーとして京都の業者が率先することです。そして、古いものを残しつつ、新しいものを生み出すというのが、京都のものづくりに共通する心と技術。お土産も、これが貫かれ、はじめて京名物たりえます」と。

 単なる復古(レトロ)ではない。京都の伝統と歴史の深さを知り、同時に新しい感覚を持つことこそというわけだが、格好の例がある。

 三条通麸屋町角に建つ若い女性に人気のカフェ。注文したカプチーノ(イタリアのミルクコーヒー)の表面には、レトロなタッチの女性の顔が浮かぶ。男女を問わず修学旅行生の間で、京土産の定番になったともいえる、あの「あぶらとり紙」でおなじみの商標(ブランド)だ。

山口富藏さん

 「14年前、大阪梅田のデパートで1週間、あぶらとり紙を売りました。予想をはるかに超え、飛ぶように売れる。毎晩、材料の和紙を家に持ち帰り、夜中まで商品づくり。あれが今の始まりでした」と、今年創業104年のよーじや管理担当ディレクター高岡一彦(45)は思い返す。京都の古きよきものが時代に迎えられた。

 「古くて珍しいだけではない。よーじやの商品が、紅ふでなど昔ながらの京化粧のいいものを受け継ぎ、実用品としてお客さんを裏切らない品質であると、認知された結果と思う」と高岡。広報を担当する金下紘子(25)は「市内の10店舗では、それぞれの場にふさわしい雰囲気を演出。押しつけがましくなく、ものを売るばかりでなく、古い京都も新しい京都も味わってもらえる工夫もしています。京都を勉強の毎日ですね」と。

 京都には、伝統の食や食材を扱う老舗74軒で構成する百味會という組織がある。来年で結成60周年。その会長は、和菓子の老舗末富主人の山口富藏(70)。「京都に来て、たんに名所、旧跡をみるだけではね。その奥にある暮らしの文化をこそ知ってほしい」と山口。ただ、その暮らしが最近見えなくなってきたという。「元来、京都では、どこにも客をもてなす文化があった。京都のもんがもうちょっと辛抱し、この伝統を受け継ぎ、時代の流れの中で新しい試みもしながら、ほんものを伝承していくことが大事やないですか。この結果、はじめて観光客を引きつけてやまぬ京都の魅力というものがついてくるのです」と山口は話す。

 京に魅せられ、訪ね来る人の波はたえない。その期待、思いを裏切らぬ京都であるために、何が要るのか。「迎える人たち」に聞いた。

(敬称略、「おこしやすの心」は5回掲載の予定)

[京都新聞 2007年9月18日掲載]