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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

おこしやすの心 4 旅館

伝統の風情 時代の新鮮味生かす

山本忠彦さん(右)と北原茂樹さん

 京の秋といえば紅葉と食。京都市内各地の宿泊施設が訪れる観光客を迎える。ホテルの一方で、日本的な伝統を背景に、根強い人気を誇るのが和風旅館。

 世界的に著名な高級老舗から、修学旅行中心の旅館、外国人が気軽に滞在する素泊まりの宿まで、京都市内では266軒(京都府旅館生活衛生同業組合加入旅館、平成18年)が宿泊客を待つ。

 「京都の数限りない風情をどう取り込んでいくか。この工夫をするかしないかが、存亡を制します」と話すのは、旅館生活衛生同業組合の副理事長山本忠彦(59)。紅葉の高雄で、料理屋として始まった100年の「もみぢ家」を、22歳から切り盛りしてきた。

 「高雄には、紅葉以外にもホタルの舞うような自然があります。こうした環境を借り、貴船とは違った川床で、新緑の中、料理や舞妓の踊りを楽しんでもらうなど工夫し、夏にトップシーズンをつくることができました」と自らの例をひく。「昔ながらの『クモの巣商売』ではいけない。京都は、市内なら市内、郊外なら郊外それぞれ特色がある。これを利用し、本物の京都を味わえるサービスを提案していくことが大事」と話す。

清水建一さんと祥子さん

 「修学旅行生がリピーターの始まりですからね。この時、いい思い出を作ってもらえるかどうか。旅館の役割は大きい」と、国際観光旅館連盟京都会会長北原茂樹(57)は話す。京都の真ん中堺町通六角の旅館「こうろ」で、大勢の修学旅行生を引き受ける。

 「最近の生徒さんは、自主研究で京都の伝統工芸とか、生きたテーマを探している。これに対応するのに、旅館がもつ地域に根ざした情報ネットワークがものをいうのです」と北原。「旅行代理店が提案するような名所・旧跡ではなく、地域にも新旧の生きた教材や文化財がある。日ごろから伝統工芸の職人さんはじめ地域の人と連携しておけば、修学旅行生にも最近増えた外国人にも、旅館発の心に残る体験を提供できます」

 祇園らしい新橋の風情と、いかにも京都を感じさせる美術骨董(こっとう)品の店が並ぶ新門前通。その奥まった一角に建つ旅館「吉今(よしいま)」。京都の深い文化を体験させる旅館として、海外でも知られる。「戦禍を免れた京都は、世界共有の文化遺産です。上っ面ではない京都のほんまもんを提供しないと、申し訳ない」と、主人の清水建一。代々のお茶屋から先代が旅館に転換。貿易会社に勤めた後、家業を継いだ。昔ながらの建物、古い所蔵品をもとに、特に欧米人を対象にしたお茶、禅料理、新橋や新門前の風情を楽しむ商品を考案した。現在の「京都伝統の衣食住を疑似体験させるサービス」だ。

中村京古さん(右)と西村明美さん

 「このサービスには、他のホテル宿泊者も来ていただきますが、旅館の方もお布団、畳という日本旧来のやりかたをそのままに、きちんとおもてなししていきたい」と女将(おかみ)の祥子が付け加える。

 左京区吉田山。その中腹にあるのが、大文字も比叡山も一望する閑静なたたずまいの「吉田山荘」。昭和7年に建てられた旧宮家東伏見家の元別邸だ。

 「宮家の邸は全国にありますが、ここは当時のままです。和洋融合、悠久の時が感じられる文化財的建築。多少不便、不合理でも、いいものは自覚して残していかねばならないと考えているのです」と、女将中村京古がいう。

 その一方で「守るためには攻めること」とも。「よきものを伝えていくということにぶれがないよう、常に温故知新の学びが大切です。演奏会や、ここに残るものをモチーフにした現代的商品も楽しんでいただけるよう心がけています」と、新しい和文化創出にも余念がない。

 御池通と麸屋町通の角にある「柊家」。何いわずとも老舗の雰囲気があふれ、漂う。そこに、当代が三階建ての新館を今年完成させた。

 「最新の技術を盛り込み、古いものと新しいものとを生かし合う。江戸時代から伝わる代々のいいところ、深みを際だたせる試みです。一歩踏み出す決断を主人がしてくれました」と六代目女将西村明美。「京都のよさは、歴史の重みが今に生きていること。そしてそれが、形には見えなくても今の人の心に脈々と引き継がれているところではないでしょうか」と西村。「旅館に泊まることで街の評価が決まるといわれます。旅館の果たす役割は大きいのです。泊まっていただき、この京都のすばらしさをどう感じていただけるか、すごく責任を感じますね」

 和の伝統を引き継ぎつつ、巧みに最新のテクノロジーも気風も取り込む京の旅館。しなやかな不易流行の精神によるもてなしが、また京の観光を引き立たす。(敬称略)

[京都新聞 2007年9月21日掲載]