若狭経て京に至る昆布道

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北前船の寄港地でにぎわった越前三国の神社に奉納の「難船船絵馬」(新保春日神社蔵)。板子一枚下は地獄の北海交易を描く
 狂言に昆布売(こぶうり)という出し物がある。

 大蔵流狂言師の茂山千作さんから「若狭の小浜から出てきた昆布売りの男と供のいない武士のからみを面白く演じる。時期に関係なく、ひんぱんに(舞台)出します」と、聞く。

 作者は天台宗の僧、「庭訓往来(ていきんおうらい)」の著者玄恵(げんえ)といわれ、徒然草の吉田兼好と同時代の人である。

(シテ)是は若狭の召し(献上)の昆布売りでごさる。毎日、都へ商売に参る。さすが都でござる。毎日、持って参ても、うり余いて持て戻たことござらぬ

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錦に並ぶ昆布ブランドは尾札部、利尻が双璧(千波)
 昆布が当時、都に出回り、北海、若狭、都をつなぐ海と山の道、昆布ロードができていたことを物語る。

 玄恵没後、四十二年経った一三九二年に京都で昆布の老舗が生まれた。京都市中京区釜座通丸太町下ル、「松前屋」。後亀山天皇から下賜の屋号は、御所の昆布を扱い、御用達の歴史そのものだ。

 現当主小嶋文右衛門さんが「店を構えても御所の台所が仕事場で、明治の遷都になり、市販に活路を見いだすまで店売りの経験はなかった」と、語るように町商の歴史は浅い。

 昆布は禁裏のおやつにもなった。表面にふく白い粉が昆布の糖分でなめると甘い。お茶菓子からおやつと多種多様な使い道があった。

始まりは宇賀産昆布

 松前屋には比呂女(ひろめ)の名前の一子相伝の技術の生んだ昆布が並ぶ。ヒロメは、エビスメとともに昆布の古名で、昆布に比べてどこか雅に響く、いにしえの味がする。

 松前屋の使う昆布は、北海道の道南、尾札部産の真昆布で、「白口浜」が銘柄である。

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食文化は産地遠く花開く。煮込みは真昆布、出汁は利尻と使い分ける(柳馬場四条上ル、ぎぼし)
「あそこはいい山と川がある。しかし、浜環境の変化でいい昆布は減っている」 昆布にも産地によって甘口と辛口があり、白口浜は品質の良さと甘味が特徴の最高級品の折り紙がつく。 京都にまとまって海路運ばれた昆布の始まりは、宇賀昆布。狂言の昆布売りが担ったのは、おそらく宇賀昆布でなかったか。南北朝から江戸時代初期まで函館の宇賀の浦海岸で採れた。 まだ北前船の西回りコースが確立していない時代で、敦賀、小浜から京都がルートの時代にあたる。

 近江商人が開拓した北海交易に雇われた北陸の船乗りが力をつけて独立、北前船交易が隆盛をきわめ、西回りで大阪まで昆布が持ち込まれるのは、江戸時代になってからだ。

 この頃、白口浜の昆布が京、大阪へ届く。透明な出汁で京料理に欠かせない利尻昆布はさらに遅れる。

 昆布は、魚と違って、産地によって味、形がはっきり異なり、用途も違ってくる。それだけ奥が深い。

 産地から離れたところで食文化は花開く。京都、大阪で昆布の様々な食べ方が工夫、開発された。

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昆布の店としては日本最古の「松前屋」
 錦の乾物店をのぞいて、銘柄をひろってみると、七種類は超える。柳馬場通四条上ルの京昆布の「ぎぼし」。主人の上田敬治さんが昆布ブランドをていねいに解説する。

「真こんぶは肉が厚く、幅広い。食べておいしいのはこれ。出汁に色がつくので、京料理の吸い物に向かないが、風味、味とも最高。利尻は硬い感じがするが、すましに使う高級ブランド。羅臼は味が濃厚でくどいから、京都には向かないけれど、それがいいと最近は人気がある。日高は東京での需要が多く、やわらかく、こんぶ巻用」と続く。 天然昆布は寝かせると、味がまろやかになる。普通は二年から三年間、倉入りするが、五年待つ店もある。ちょうどワインと同じで、いい昆布は白口浜何年ものというように産地、採取年がものをいう。

 ぎぼしの調理場から尾札部産を使った昆布の煮込みの香りが漂ってきた。親子で煮込みする上田さんがつぶやく。

 「春から夏にかけて、こちらの天気よりも、北海道の天気が気になる。ええ昆布に育ってくれているやろか」

 昆布は二年、不作だった。見上げる空が北へ招く。

(編集委員粟津征二郎) 


 ■江戸時代の昆布産地

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 函館はかつて、昆布の町。江戸時代前の昆布産地の宇賀は函館市内にある。宇賀昆布は肉が厚く、硬いため、削って食べた。富山名産の昆布蒲鉾に宇賀昆布を使用したのも幅と厚さがあったためだ。

 野湯の川温泉に近く、現在、木の銅像=写真=がある海岸が宇賀。後方に函館山、立待岬がかすむ。「潮かおる北の浜辺の 砂山のかの浜薔薇よ 今年も吹きけるや」が刻まれる。砂浜海岸は道路になり、往時の面影はない。地名の宇賀の浦は残り、川が流れ込んでいる。河口には、打ち上げられた昆布が、波とたわむれる。

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