Kyoto Shimbun 1998.9.21
 監督・コーチの解任で揺れる ワコール陸上部

 実業団規定 問題点浮き彫り

 陸上女子長距離の実業団チーム、ワコールが監督・コーチの去就問題をめぐって揺れている。今年七月、会社が監督とコーチ二人を解任。旧指導陣は解任を不当として八月十四日、京都地裁に地位保全の仮処分申請をして争っている。発端となった選手移籍について、実業団規程の問題点などを考えてみた。

第13回全日本実業団対抗女子駅伝で5度目の優勝を飾ったワコール。アンカーは真木和選手(1995年12月、長良川陸上競技場)
 基準明確に 改変を

 会社側は藤田信之前監督ら指導陣の解任理由を「選手の移籍を妨げた」「体罰を伴う指導があった」と説明。入社三年目の選手が昨年十月に退社、他の実業団へ移籍しようとしたのを藤田前監督が認めず、その選手の家族から会社に体罰を伴う指導に対する問題提起があったとしている。

 体罰について、藤田前監督は「選手から『自分に非があり、体罰とは受け取っていない』という主旨の手紙をもらった」と反論。これに対し、会社は「本人や周囲の受け取り方に関係なく、体罰を伴う指導を容認しない」と、双方の主張は平行線をたどっている。

 移籍問題について、日本実業団連合の登録規程には「移籍者の登録については前所属事業所の陸上競技部長(または監督)の退部証明書を添付の上各連盟の審査を経て、連合の承認を得なければならない」(第8条)と定めている。実業団登録がない場合、同連合主催の大会には出場できない。しかし、日本陸連への登録は可能で、競技の場が全く奪われるわけではない。

 実業団登録が認められなかった移籍では、早田俊幸選手の例がある。マラソンに専念したいという早田選手と、駅伝優先の鐘紡の方針が合わず、他チームへの移籍案が浮上。「実業団登録をしないことで両チームが合意」(実業団関係者)して移籍が成立した。

 第8条規程の狙いを露木昇同連合事務局長は「引き抜きによるチーム間のいさかいを防ぐため」と説明する。長距離選手の育成には時間と資金がかかる。藤田前監督は「移籍に同意しなかったのは、連合規程に沿っただけ」と主張する。

 選手保護の視点が欠如

 しかし、競技観の違いから選手側が移籍を願い出ることもある。チーム側が一方的に移籍の可否を決定できる制度は人権上の問題もありはしないか。米国プロリーグの移籍問題などに詳しい川井圭司関西外大講師は「スポーツで収入を得ているとすれば、転職の自由を妨げ、能力の取り引きを不当に安く抑えることを禁じた独占禁止法違反の疑いもある」と指摘する。規程は、チーム維持に力点が置かれ、選手保護の視点が欠けているように見える。

 こういった制度上の問題は、スポーツ界では実業団陸上だけのものではない。選手の肖像権の一括管理を理由に、有森裕子選手(リクルート)の競技者としてのタレント活動を認めないとするJOC、契約更改時の代理人の立ち合いを認めないプロ野球機構など…。

 野茂英雄投手(メッツ)中田英寿選手(ペルージャ)ら海外で活躍する日本人選手が増え、海外から日本に活動の場を求める選手も多い。スポーツ界にもグローバルスタンダードの波が押し寄せつつある。

 実業団の規程は一九五九年に制定、七度の改正を経て現在に至っている。露木事務局長は「規程はすきまだらけ。これですべての問題を規制しようというのではなく、最低限の決まりを定めた」と説明する。

 しかし、制定当時と現在ではスポーツをめぐる環境は大きく変化している。「(抜本的な改変を)考えようという意思はある」(同事務局長)。スポーツ選手の活躍の場は、競技だけでなく、さまざまな分野へと拡大している。日本のスポーツ界全体が、選手側の権利も考慮した規程や規則への改変を迫られているのではないか。

(運動部 万代憲司)

 ▼ワコール女子陸上部、藤田監督を解任(98.7.21)
 ▼藤田氏、地位保全求め京都地裁に申請(98.8.14)
 ▼ワコールと陸上部元監督 和解が成立、退職(98.10.8)


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