確証なき無差別殺人 毒物カレー事件判決(2)
一変、冗舌から沈黙へ ビデオ調書に代用

 「何を考えているの」「ひどい」。満員の傍聴席の被害者らから、沈黙を守る林真須美被告(41)にいら立ちと非難の声が飛んだ。今年3月22日の和歌山地裁。

 検察側の被告人質問に先立ち、真須美被告は小声でこう言った。

 「何も話したくない。発言席にも着きたくない」

 裁判官に促され席には着いたが、検察官が繰り出す百を超す質問に約2時間、すべて黙秘で通した。

 被告人質問の約2時間前、法廷にある3台のモニター画面からは、テレビインタビューに冗舌に答える真須美被告の映像が約10分間、流れた。ビデオは黙秘する真須美被告の供述調書に代わり、地裁が採用決定した異例の証拠だった。

 「冗舌から沈黙へ」。逮捕後、真須美被告は態度を一変。捜査段階では雑談を除き黙秘を決め込み、調書は1通 も作成されなかった。和歌山県警が家宅捜索で押収した手帳には、弁護士の助言か「供述調書、署名押印しないで」とあった。

 その後も黙秘を貫くかにみえた真須美被告は、夫の健治受刑者(57)の保険金詐欺事件の公判で、冗舌さを取り戻す。医師や保険会社に責任転嫁するような証言に弁舌を振るったが、検察官から次々と矛盾点を追及されると、「分かりません」を連発。言葉を失っていった。

 この日の証言が、真須美被告を再び沈黙の世界に追いやる。弁護団では公判での被告人質問をどうするのか意見が割れた。「心証が悪くなる。黙秘を通 すべきだ」「カレー事件当日の行動だけでも主張させたほうがよいのでは」。結論が出ないまま約半年後、本人の意向を確かめることにした。

 「もう話したくない」  真須美被告はきっぱり言った。「矛盾点をつかれ、たじたじになった経験で懲りたのだろう」。弁護団の1人は分析する。

 黙秘戦術の真須美被告に検察側は、どう対抗したのか。焦点は動機だった。冒頭陳述で明記しなかった動機を、公判の中で事実上こう特定した。

 「真須美被告が事件当日の昼、近所の主婦らの冷たい態度に疎外されたと感じ激高した」

 立証の有力な証拠に選んだのがビデオ。県警がテレビのカレー事件関連番組を録画した約400本のビデオから、真須美被告の「激高」ぶりをうかがわせるとした場面 をテープ2本に編集。昨年末に“自白調書”として証拠請求した。

 だが、ビデオに直接「激高」を示す真須美被告の言動はない。裁判官の目にビデオはどう映ったのか。11日の判決で示される。

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