確証なき無差別殺人 毒物カレー事件判決(4)
幻の“国選弁護団  審理の迅速化が壁

 毒物カレー事件裁判が3年目を迎える昨年春。和歌山地裁と林真須美被告(41)の弁護団が、水面 下である交渉を続けていた。

 「私選から国費で裁判費用を賄える国選弁護人に切り替えてもらえないか」

 弁護団は国選への切り替えを求めた。真須美被告には逮捕直後、以前から相談していた弁護士を中心に私選弁護団が結成され、現在は大阪、和歌山両弁護士会の7人。弁護費用などとして最初に受け取った金額では不足し、カンパに頼ってきたが、限界があった。

 「これまでの私選を国選に切り替えるには、審理促進という大義名分が必要」

 弁護団の提案に地裁は難色を示した。

 国選弁護人は地元弁護士から選ぶのが原則の上、公判途中での切り替えは異例。交渉は難航したが、夏ごろまでには地裁が、大阪高裁と協議を始めるなど前向きな姿勢になった。

 「全員を国選弁護人に選任することを検討している。代わりに月四回の審理を五回に増やしてほしい」

 審理の迅速化を進める地裁は、開廷日数を増やすことを切り替えの条件に提示した。一方の弁護団には、遺族調書などの証拠採用に同意するなど争点の絞り込みに応じ、月3、4回の開廷も了承、十分に協力してきたとの思いが強かった。

 「これ以上の負担増は適正な弁護活動を妨げる。金のために犠牲にできない」

 弁護団は交渉を打ち切り、国選への切り替えは土壇場で幻に終わった。

 「審理にあまりに時間がかかりすぎる」。裁判批判に政府は次期通常国会に裁判迅速化促進法案を提出。「一審判決は2年以内」のスピードアップを図る。

 カレー事件は当初から真須美被告が全面否認。「一審で10年かかる」といわれたが、弁護団もヒ素の絡まない保険金詐欺を争わないなど協力、初公判から3年7カ月で判決を迎える。それでも2年以内の目標に遠く及ばない。集中審理に応じると、他の仕事を犠牲にせざるを得ない弁護士の負担をどう軽くするのかが最大の懸案だ。

 埼玉県本庄市の保険金殺人件の公判は週3、4日のペースで開廷し、1年半で終結。刑事裁判に詳しい国選弁護人4人がほぼ専従するなど「集中審理のモデルケース」とされる。

 だが「(埼玉の保険金殺人は)例外的なケースで、同様の態勢を組むのは難しい」と真須美被告弁護団の一人は指摘。「迅速化ばかりが強調されると、複雑な事件では金持ちを除けば適切な弁護を受けられなくなる」と危機感を募らせる。

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