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老舗バー、DNA継ぐ京都の3店 「サンボア」創業100年

90年近い歴史を持つ京都サンボア。3代目のマスター中川宏さんが一人で店に立つ(京都市中京区)
90年近い歴史を持つ京都サンボア。3代目のマスター中川宏さんが一人で店に立つ(京都市中京区)

 京都市内のほか大阪、東京に店舗を持つバー「サンボア」が創業100年を迎えた。1918(大正7)年に神戸で開業したミルクホールが始まりとされ、のれん分けして出店を広げた。京都では約90年の歴史を重ねる「京都サンボア」や、作家の故山口瞳氏が愛した「祇園サンボア」、そして平成になって開店した「木屋町サンボア」の3店が、日本のバー草分けの社交場空間を受け継いでいる。

 「バー『サンボア』の百年」(白水社)が昨年12月に出版された。この本によると、JR元町駅に近い場所で開業した「岡西ミルクホール」がのちに洋酒を提供するようになり、サンボアと改名。現在は京都3店のほか大阪8店、東京3店の計14店が営業している。

 京都の本家筋に当たる「京都サンボア」(中京区寺町通三条下ル)。扉をくぐると3代目マスター、中川宏さん(61)がカウンターの向こうから出迎えた。

 基本的にカウンターのみ。BGMはなく、時間が止まったかのようだ。午後6時ごろの開店とともに客が訪れる。親の世代からの常連客が「今年もよろしく」とハイボールをマスターに勧めた。学生の時以来50年ぶりに広島県から訪れたというお客さんは「ほとんど変わってない」と懐かしそうに店内を見つめていた。

 宏さんの祖父護録さんが大阪の「北浜-」で修業ののちに開業した。時期ははっきりしないが、大正末期か昭和初期という。当初は、河原町蛸薬師の東側で、終戦直前の45年8月に家屋疎開を余儀なくされた。護録さんは故郷の広島に列車で向かったが度重なる空襲のため、広島の手前の駅で足止めされたことで原爆被害を免れたという。戦後、現在の場所で営業を再開した。「列車が遅れなければ店も私もいなかったかもしれない」と宏さんは笑う。東京のバーなどで修業し、78年に父の店に戻った。

 店内には無数の栓抜きが掲げられている。「先代が集めてぶら下げるようになったのを見たお客さんたちが世界中のものを持ってくるようになって」。びっしり壁を埋める栓抜きが店の歴史をうかがわせる。

 「祇園-」(東山区祇園町南側)は波乱の半世紀を歩んできた。護録さんの四男志朗さんが「京都-」での修業を経て72年に開業。妻歡(よし)子さん(77)の母の実家であるお茶屋の一部を改築した。しかし4年後に志朗さんが42歳で急死した。

 歡子さんは女性ということもあり「京都-」の2代目から「のれんは継がせない」と反対された。歡子さんは「1年だけ」と懇願し、カクテルの作り方から始めた。その時に支えたのが、開高健氏とともにサントリー宣伝部の黄金期を築いた山口氏だった。京都の定宿が近く、常連になっていた山口氏が歡子さんに東京の有名バーを案内するなど支援した。「店の繁盛を見て2代目も認めてくれた。常連さんたちのおかげで再出発できた」と振り返る。

 やがて長男立美さんが店に立つようになったが2016年、53歳で急逝。再び歡子さん一人になったが、ほかのバーなどで修業した立美さんの長男瑞貴さん(28)が今年1月から店を継ぐために戻ってきた。歡子さんは「あと4年で開店50年。孫が早く一人前になるように頑張りたい」。

 「木屋町-」(中京区西木屋町通四条上ル)は護録さんの七男清志さん(73)が90年に開いた。「京都-」で10年近く修業し、スナック経営を経た。入り口の扉は一年中開けっ放しにしている。「観光客も常連さんも分け隔てなく接する。そして楽しく語り合う」。それが、清志さんが原点の「京都-」で初代から学んだサンボアらしさという。

 清志さんが一時体調を崩して入院したこともあり、長男涼介さん(28)が3年前に大手百貨店を辞めて「修業」している。息子が店を継ぐことに当初反対したという清志さん。「一人前になるには10年かかる。倒れるまで店に立ちたい」。そう言いながらも、看板を守ろうとする息子を見守る視線は温かい。

 ■サンボア 本「バー『サンボア』の百年」によると、広島県出身とみられる岡西繁一が開いた「岡西ミルクホール」を1923(大正12)年にサンボアと改称。名は、北原白秋が編者を務めた当時の文芸誌「ザムボア」が由来という。同書は、文字に親しみのない看板屋が頭文字の「Z」を逆さにして「S」と間違い、「サンボア」になったという逸話を紹介。一方、谷崎潤一郎の命名説には「無理がある」と否定的な見方を示す。

【 2018年01月29日 17時00分 】

ニュース写真

  • 90年近い歴史を持つ京都サンボア。3代目のマスター中川宏さんが一人で店に立つ(京都市中京区)
  • 祇園サンボアの歡子さん(左)と孫の瑞貴さん=東山区
  • 木屋町サンボアの清志さん(左)と長男の涼介さん=中京区
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