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「人間というのは誤る」 絶対的なものへの反骨、梅原哲学の原点

卒寿を祝う会で学問へのさらなる意欲を語った梅原猛さん(2015年3月9日、京都市下京区のホテル)
卒寿を祝う会で学問へのさらなる意欲を語った梅原猛さん(2015年3月9日、京都市下京区のホテル)

 「人間というのは誤る。間違ったら、それを訂正する勇気が必要なんですよ」

 12日に93歳で亡くなった哲学者の梅原猛さんは、30年以上前に発表した自説の過ちを厳しく指摘した単著「葬られた王朝」を取材した際、率直に語ってくれた。

 そこには、若いころに直面した戦争への反省があった。情況を客観視せず、自己の誤りを正すことなく、戦争へ突き進んでしまった。国のために死ねと言われたほどなのに、戦後「正義」は反転した。絶対的なものへの反骨、既成概念への疑いが梅原さんの学問を支えた。それが原点だった。

 京都へ来たのは、東洋的な独自の哲学大系を築き上げた西田幾多郎や田辺元ら京都学派の哲学者へのあこがれからだ。京都大では哲学研究に熱するあまり、師事した教授とも衝突した。その中から、自らの体験や思考から世界を捉え、体系的哲学を樹立する力を獲得した。それが「梅原哲学」の骨となった。

 日本思想の根底を流れる原理を、生命の思想、心の思想、地獄の思想と規定し、平家物語から宮沢賢治に至る文学に現れる地獄を通して日本人の精神の水脈を探った「地獄の思想」は、ベストセラーに。柿本人麿流罪刑死説を打ち出した「水底の歌」など、歴史の常識や文化史観に果敢に切り込み、時に批判も浴びた。思索の遍歴は2回の著作集、計40巻にまとめた。

 旺盛な好奇心、尽きない探究心、先入観にとらわれない精神は、学問の枠さえ飛び越えた。1986年、市川猿之助(現・猿翁)さんへ書き下ろしたスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」をはじめ、狂言の茂山家のために作った狂言「クローン人間ナマシマ」「ムツゴロウ」など次々と手がけた。生物であることを忘れた人間への鋭い批評、弱い立場の生命への共感のまなざしが息づいていた。爆笑が包む会場で、最も笑っていたのは梅原さん本人だった。

 国際日本文化研究センター設立に奔走し、「政治力」を発揮した。「九条の会」の呼びかけ人となり、互いに「京都を守る鬼」と呼び合った瀬戸内寂聴さんと、憲法9条の精神の尊さを説いた。東日本大震災を「文明災」とし、現代社会を厳しく批判。科学の意味を再考し、たえず人類哲学を打ち立てる必要性を語った。

 「僕はまだちゃんとした哲学の本を書けていないんだよ」とよく漏らした。「がんを何度もやったのに生かされてきた。怨霊を研究してきたから妖怪みたいなもんだな。こうなったら100歳まで研究しよう」とユーモアは失わなかった。京都学派を志した青年時代と変わらぬ好奇心とバイタリティーを最期までみなぎらせ、巨星は逝った。

【 2019年01月14日 09時41分 】

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  • 卒寿を祝う会で学問へのさらなる意欲を語った梅原猛さん(2015年3月9日、京都市下京区のホテル)
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