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警官採用で見抜けなかった資質 滋賀・同僚射殺事件

彦根署河瀬駅前交番の再開を前に、机を運び込む県警関係者ら。掲示板には県警警察官募集のポスターが張られてあった(4月18日、彦根市南川瀬町)
彦根署河瀬駅前交番の再開を前に、机を運び込む県警関係者ら。掲示板には県警警察官募集のポスターが張られてあった(4月18日、彦根市南川瀬町)

 <19歳の凶弾 上>

 滋賀県の彦根署警官射殺事件は発生から1カ月を過ぎた。勤務中に同僚を撃つという前代未聞の不祥事は、社会に大きな衝撃を与えた。事件の背景を探る。

 4月11日午後7時47分。彦根署河瀬駅前交番(彦根市)で、巡査の少年(19)=懲戒免職=が、教育係だった井本光(あきら)巡査部長(41)=警部に昇任=の背後から頭を撃ち抜き、背中も撃った。巡査部長はほぼ即死だった。

 「書類の訂正などを何度もさせられ、理不尽に思えた。嫌がらせを受けているとも感じた。犯行直前に書類作成の指導を受け、ストレスのようなものが爆発した」。滋賀県警が発表した巡査の供述だ。結果の重大さとかけ離れた短絡的な動機。県警幹部は「書類作成は公判維持のためにも間違いがないよう徹底的にたたき込む。新人は指導を受けて当然。理解できない」と頭を抱える。県警の調査でも巡査部長に「行き過ぎた指導はなかった」という。

 巡査は現場に配属されて3カ月足らずで犯行に及んだ。巡査部長とは5回一緒に勤務しただけで、約1カ月後には県警察学校に再入校する予定だった。

 野球部だった高校時代から「警察官になる」と公言していた巡査。県警察学校のオープンキャンパスにも参加するなど熱意を見せていた。2017年4月に採用され、あこがれの警察官になった。県警は成績や勤務態度に「問題はなかった」としているが、警察学校などで適性を見抜けなかったのか。

 高卒の場合は10カ月間入校する。在校中の生活は厳しい。「職務倫理教養」の授業で警察官の責務や心構えを学び、過去の不祥事を例に再発防止について討論することも。拳銃の取り扱いに関する授業も60時間以上あり、銃器を持つ重みも身につける。だが、巡査は貸与された拳銃から凶弾を放った。県警幹部は「キレやすいと気づいても、拳銃を同僚に向けるような面を見抜くのは無理だったと思う」と、資質をとらえる困難さを漏らす。

 警察学校には、警察官としての基礎を教え込むほかに、不適格者をふるい落とす役割もある。

 県警は02年からの16年間で1612人を採用したが、8・4%にあたる136人が警察学校を修了せずに依願退職している。県警関係者は「学校の教官が一人一人の状況を把握し、成績や態度が悪い学生には別の進路を示して説得することもある」と明かす。

 少子化が進み、優秀な人材の確保は全国的な課題だ。県警も例外ではない。巡査が採用された16年度の採用試験を受験したのは、723人。01年度の半分以下で、最近16年間では最低の倍率(5・6倍)だった。採用担当者は「人材確保は大変難しくなっている」と苦悩を語る。

 2日、県警の鎌田徹郎本部長は会見し、採用や研修のあり方を見直し、若手警察官の相談窓口も充実させることを柱とした再発防止策を発表した。

 「書類作成は覚えることも多く大変だし、指導が厳しい先輩もいる。でも、それだけで撃つとは思えない。動機は供述にあるような仕事面だけでなく、背景に学校や生活全般の影響があると考える方が自然だ」と福岡県警の元警察官で、犯罪社会学が専門の作田誠一郎・佛教大准教授は指摘する。採用時や学校で適性を完璧に見抜くのは難しいとし、「感情のブレーキがきかない場面は誰にでも起こり得るので、ストレスをため込まない環境を整える方が有効では」と提言する。

【 2018年05月14日 17時56分 】

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  • 彦根署河瀬駅前交番の再開を前に、机を運び込む県警関係者ら。掲示板には県警警察官募集のポスターが張られてあった(4月18日、彦根市南川瀬町)
  • 滋賀県警の年度ごとの受験者数とそのうちの採用人数
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