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空港計画、最後まで奔走 平成の滋賀県政、稲葉稔知事

琵琶湖の保全を橋本龍太郎首相に要望する稲葉稔知事(右)=1996年8月、大津市内
琵琶湖の保全を橋本龍太郎首相に要望する稲葉稔知事(右)=1996年8月、大津市内

 <平成の滋賀県政 稲葉稔知事(1986~98)>

 6月7日告示、24日投開票の滋賀県知事選は、平成時代最後を飾る県政の舵取り役を選ぶ。平成を支えた3知事(現職除く)の決断や政策を通じ、時代の変遷を振り返る。

 平成が始まった1989年の10月31日。大津プリンスホテル(当時)=大津市=は、経済関係者ら約600人の熱気に包まれていた。びわこ空港の建設を目指す期成同盟会の設立総会。「21世紀は空の時代。遅れをとらないように、湖国の空港の早期開港を」。滋賀県知事・稲葉稔(故人)の呼び掛けで空港誘致は本格的に動き出した。

 時はバブルの絶頂期。県政始まって以来の大事業「琵琶湖総合開発」も仕上げ段階に入り、次なる発展に向けた足掛かりが求められていた。滋賀は高速道路や新幹線など恵まれた立地を背景に、工業県として成長。県民所得も全国上位に定着した。だが、全国で交通網の整備が進み、稲葉に「かつてのような産業上の立地優位性が薄れている」との危機感は強かった。

 ただ、すでに国は地方空港の整備は一段落したとの認識を示していた。湖国経済界は、同様に空港を持たない京都府、奈良県も巻き込み、3府県の商工団体で団結。宇野宗佑前首相ら国会議員も岐阜、三重の両県を加えた5府県の議員連盟をつくり陳情攻勢を展開した。

 90年の期成同盟会には設立時の倍にあたる約1200人が集結。誘致の熱意が届き、国の第6次空港整備計画に初めて組み入れられたのは91年のことだった。

 だが、地権者の反対は根強かった。当時秘書課長だった土井典彦(77)は、自ら地元へ出向き、説得に当たった稲葉の姿を思い出す。騒音への懸念や墜落の危険性を訴える住民の声に、じっと耳を傾け、帰途に就くのは深夜になった。

 土井にとって印象深いのは、住民との交渉に当たる空港担当職員の懇親会に稲葉が行けなくなった時のことだ。稲葉から託されたメモには「自分たちが苦しい時は、相手さんもしんどい。英気を養ってくれ」と書かれていた。「最高責任者として自分が一番しんどいはずなのに」。職員と住民、両方を気遣う寡黙な稲葉のやさしさに目頭を熱くした。

 住民との交渉が長期化する中、バブルは崩壊し、国や県の財政も先行きが怪しくなった。計画が遅れれば実現が遠のく状況に追い込まれ、稲葉は97年、整備に向けた環境アセスメント(影響調査)の実施を決断した。地元からは強い反発が出たが「将来を見通して必要な手を打つ行政の役割を放棄できない」と覚悟。「『小さな民主主義』はもちろん大切だが、『大きな民主主義』も、場合によってはそれ以上に大切だ」と苦渋の選択に理解を求めた。

 結局、稲葉は任期中に空港を実現することができなかった。

 任期最後の県議会本会議となった98年6月。稲葉は悔しさをにじませながら、なお空港の必要性を訴えた。「21世紀は地方の時代と言われるが、それは地方間の激しい競い合いでもある。時代が求める交通基盤を整備した地域が発展してきたことは歴史が証明している」

 ■文化施設を積極整備

 1986年に初当選した稲葉稔氏(3期12年)は、副知事として支えた前任知事、武村正義氏の重要政策を継承し、積極的な文化施設の整備や第3次産業の振興を推し進めた。

 72年に始まった琵琶湖総合開発事業は、任期中の92年に5年間の再延長を行い、97年に終了した。水質浄化や生態系の保全を盛り込んだ「ポスト琵琶総」の立法化はならなかったが、長く水政に関わった経験を生かして琵琶湖の保全を推進。ヨシ群落保全や合併処理浄化槽の義務化を定めた独自条例の制定など環境問題で存在感を発揮した。

 特に訴えたのは「淡海文化の創造」だ。自然や風土を生かした節度ある発展を意識し、豊かな滋賀を目指した。市民活動を支援する淡海文化振興財団(淡海ネットワークセンター)を設立したほか、高齢者の生涯学習拠点となる長寿社会福祉センター(草津市)を開設。住民主体のまちづくりも後押しした。

 文化教育面では、びわ湖ホール(大津市)や琵琶湖博物館(草津市)の開館を実現。全国初の環境科学部を持つ県立大(彦根市)の開学や、立命館大びわこ・くさつキャンパス(草津市)などの大学誘致も進め、人口比の学生数全国3位(2013年)となる流れを加速させた。

 寡黙で実直な人柄と評されるが、JRが東海道線の愛称を「京都線」とする案にはかみつき、「琵琶湖線」への変更につなげた。全国に先駆けた「官官接待」の廃止表明なども話題になった。

 工業県として成熟する中、第3次産業の弱さに注目。ホテルやゴルフ場など247の施設を整備する「リゾートネックレス構想」や、賛否を呼んだ1千メートルタワーの建設構想などを打ち出し、産業の底上げにも力を注いだ。

 だが、相次ぐ大型施設の整備などで県債残高は急増。バブルの崩壊で県税収入も頭打ちとなり、任期最終年度の一般会計当初予算は39年ぶりに前年度を下回った。公共施設の着工を当面見合わせるなど財政構造改革に迫られ、成長を続けてきた県政は転換期に入った。

=敬称略、3回続きの1回目。

【 2018年05月29日 20時35分 】

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