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「高齢者等避難開始」広まる誤解 要配慮者以外の危機感薄れる

災害時、市町村が発令する避難情報
災害時、市町村が発令する避難情報

 災害時、市町村が発令する避難情報「避難準備・高齢者等避難開始」で、「逃げるのは高齢者ら避難に時間が掛かる人だけ」との誤解が広がっている。避難開始の対象には土砂災害や浸水被害の危険区域も含まれているが、住民にはほとんど知られていない。先月の西日本豪雨では避難勧告・指示発令の遅れが指摘され、「避難準備」の段階で逃げる重要性が改めてクローズアップされている。

 ■危険区域内は全員避難

 避難準備・高齢者等避難開始は、避難勧告・指示が出る前に発令される。府内も大きな被害を受けた2004年の台風23号禍を受け、05年3月に制度化された。当初は、高齢者や小さな子どものいる家族など避難に時間を要する人は避難を始め、他の人は避難に向けて準備をするという意味だった。その後、広島市で70人以上が亡くなった14年8月の土砂災害で、被害発生前に避難勧告・指示が発令されなかったことが問題化。内閣府は15年8月、避難準備の意味に、土砂災害、浸水被害の危険性が高い地域の住民も「避難が強く望まれる」と付け加えた。

 これを受け、京都市は、土砂崩れで家屋損壊の恐れがある土砂災害特別警戒区域と、河川氾濫で建物倒壊が想定される区域は避難準備で「立ち退き避難が望ましい」(市防災危機管理室)対象に含めた。しかし、両区域に居住・勤務する20人にアンケートしたところ、「要配慮者以外も逃げる」ことを知っていた人は1人もいなかった。

 北区の土砂災害特別警戒区域に住む40代の主婦は「区域指定された際の説明会で、行政からそんなことは聞かなかった」。西日本豪雨の際、7月5日午前8時35分に避難準備が発令されたが、自宅を離れたのは避難指示(6日午前10時45分)の発令後だった、という。「子どもは大学生と中学生で、避難に時間は掛からない。まさか自分が含まれているなんて」と驚いた。桂川沿いに住む大学生内海優希さん(19)=右京区=は、携帯電話のエリアメールで発令を知ったが「『高齢者』と書いてあるから関係ないと思っていた」。左京区の鴨川沿いに建築事務所を構える渡邉公生さん(64)も「よく見ると『等』って書いてあるけど、これでは分からないよ」と困惑した。「高齢者」という文字が誤解を招く原因になっている。

 運用が始まった当初は「避難準備」という名称だった。16年8月の台風10号で岩手県内の高齢者施設に避難準備の意味が伝わらず、入所者9人が逃げ遅れて亡くなった問題を受け、国は同年12月、「避難準備・高齢者等避難開始」に名称変更した。アンケートでは「高齢者は逃げる」ことを全員が知っていたが、高齢者以外の人は危機感が薄れてしまったことが伺える。

 ■行政、説明不十分で発令

 京都市がエリアメールで発信した説明文は「危険だと思う場合は避難してください」。「等」には、土砂崩れで命に危険がおよぶ土砂災害特別警戒区域と、水流で建物倒壊の恐れがある河川沿いの住民全員も含まれているが、その説明はない。

 市防災危機管理室は「正しい意味が市民に伝わっていなかったとすれば残念」というが、全戸配布したハザードマップでも「正しい意味」の説明はない。内閣府はガイドラインで「対象者ごとにとるべき避難行動が分かるように伝達する」と自治体に求めるが、市は「危険だと思う場合」との文言で、意味を知らない住民に責任を押しつけているように見える。土砂災害特別警戒区域の倉庫で働いていた塗装業中田学さん(43)=左京区=は「被害が出たら、『等にあなたも入っています。逃げなかった方が悪い』と市に言われそう」と疑った。

 見直しを行った自治体もある。西日本豪雨の土砂災害で3人が亡くなった綾部市。7月6日夕に避難準備・高齢者等避難開始を出した時はメールなどで「高齢者や体の不自由な方など避難に時間がかかる方は避難を開始」と広報した。しかし、予想を超える大雨で全域に避難指示を発令したのは大雨特別警報(7日午前0時35分)発表の70分後。特別警報前に避難所にいたのは2人で、夜間の豪雨で避難できなかった住民もいた。結果、7日未明に土砂災害危険区域の2軒に土砂が押し寄せ、死者には30代の男性もいた。

 この教訓を受け、先月28日に台風12号が接近した際の発令では「先日の大雨で浸水や土砂災害などの被害にあわれた方は避難開始」との説明を追加した。高橋一彦・総務防災室長は「夜間は若年層も避難が困難になる。詳しい意味を知らせることが重要だと痛感した」。

 ただ周知の難しさを指摘する声もある。舞鶴市は従来から「山ぎわ、川沿いの地域」にも避難開始を求めていたが、担当者は「どうしても『高齢者』という文字に目が行く。正しく伝わっているかは不安がある」と漏らす。

 住民からは「高齢者・危険地域避難開始に変えればどうか」「『危険地域は直ちに避難』と平仮名も使った方が分かりやすい」との意見もあった。内閣府防災担当者は「高齢者の早期避難を重視し、『避難準備・高齢者等避難開始』へ名称変更した。現在でも12文字で長く、これ以上増えれば分かりにくくなる。市町村が各地域の実情に応じ、説明を充実させてほしい」という。

 ■時間掛けて周知を

 内閣府のガイドライン作成検討会委員だった牛山素行・静岡大防災総合センター教授の話 避難準備・高齢者等避難開始に名称変更された際、『高齢者だけの情報だと受け止められる』との懸念を強く持っていたが、それが現実化してしまっている。ただ、名称をころころと変えるのは混乱のもとになる。まずは意味を自治体関係者がしっかりと理解し、時間を掛けて周知するしかない。住民はハザードマップなどで地域にどんな危険があるか確認し、避難準備発令の有無に関わらず、早めの安全行動をとってほしい。

【 2018年08月22日 19時37分 】

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