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突然の事故で下半身麻痺に…「野犬」が寄り添い、支えてくれた

「事故で車いす生活になった時、この子たちが心のよりどころになった」と語る小野夫妻(湖南市石部中央5丁目)
「事故で車いす生活になった時、この子たちが心のよりどころになった」と語る小野夫妻(湖南市石部中央5丁目)

 野犬は恐ろしいなどと伝えられているが、動物保護管理センターに保護された子犬の「里親」があつまる交流会で野犬たちを見てもらえたら、少しは悪いイメージを取り除いてもらえるのでは―。本職はトリマーで、滋賀県動物保護管理センター(湖南市)が捕獲した野犬の子犬の飼い主を募るボランティア活動にも取り組む松若菊美さん(48)はそう語る。10月半ばに松若さん宅で開かれた、「里親」たちが集まる交流会を訪ねた。

■野犬「相棒のような存在」

 この日は、松若さんから野犬を引き取って育てている里親約40人と犬約30匹が集合。庭に作られたドッグランスペースで犬たちを遊ばせながら、関西や中部地方から参加した里親たちが犬に関する情報交換を行った。

 「野犬は子犬でも警戒心が強く、慣れてくれるまでは大変だが、信頼関係ができると忠誠心が強く、ペットというより相棒のような存在になる」と松若さんは話す。

 2013年、センターで保護されていた子犬を目にして「譲渡の対象なのか」と尋ねると、「野犬だからできない」と返答され、疑問を持ったのがきっかけだった。「野犬はいないのが理想だが、もとは人間の無責任から生まれたもの。子犬だけでも生きるチャンスを与えたかった」

 センターと交渉し、健康状態が良い子犬を引き取り、趣旨に賛同した知人らに引き渡す活動を始めた。「それも人間のエゴかと考えることもあったが、犬と飼い主が幸せなら良いと思えるようになった」と振り返る。

 動物病院に案内チラシを置いたり、会員制交流サイト(SNS)で呼び掛けるなどして、5年間で約250匹を引き渡した。松若さん自身も5歳の雄と3歳の雌の2匹を飼っている。今春には大阪府や愛知県の飼い主と「チーム野犬」を結成し、3拠点で里親の募集を行っている。「野犬の性質をきちんと説明した上で、責任を持って飼ってもらうために、1週間ほど希望者に預けて、飼えるかどうか確かめてもらう」という。「野犬を飼う人は周りに少ないので、悩みを打ち明ける場にもなる」と15年から年2回、自宅で交流会を開いている。

■車怖がり失禁も、飼い主に寄り添い

 チーム野犬の一人で、交流会に参加した小野啓子さん(54)=大阪府貝塚市=は、2年前に夫の知之さん(54)が仕事中の事故で下半身麻痺(まひ)になった時に、野犬ならではの長所を実感したと語る。「空気感を読むのが上手。病院の駐車場で夫に会わせると、状況を察してずっと夫に寄り添っていた。夫にとってはセラピー犬だった」。知之さんは「一生車いす生活と分かって心が腐っていた時期に、自宅のベッドで一緒に寝てくれた。言葉を使えなくても思いがあるのだと知ると、生きていこうと思えた」。

 谷久美子さん(49)=湖南市=は1歳の雌犬を飼っている。「知らない人が来ると、今でもケージや机の下に隠れて出てこないし、車や自転車などの人工物を怖がり失禁することもある」と、独特の習性を説明する。逃げると戻ってこない不安もあり、屋外ではリードを外せない。でも「トイレを汚さない、無駄ぼえをしないなど、生きる上での賢さがある。飼い主には優しく寄り添ってくれる」という。

 松若さんは「野犬は人を襲うから怖いというのは偏見だし、かわいそうというのも違う。ペットショップで売られる純血種とは違う良さがある。多くの人に魅力を知ってもらい、野犬の数も殺処分数もゼロに近づけていきたい」と語る。

■殺処分が10分の1以下に

 滋賀県での野犬の現状や犬飼育の状況を、県動物保護管理センターの佐野哲也次長(獣医師)に聞いた。

     ◇

-県内の野犬の生息数は。

 長浜市の姉川河川敷に20~30匹の群れがあり、明確には分からないが、昭和初期から続いているようだ。人から餌を与えられた痕跡もある。

 狂犬病予防法や県条例に基づき、捕獲のための檻(おり)を群れの近くに設置している。成犬は年に数匹ほどしか捕まらないが、まだ警戒心の薄い子犬は捕まりやすい。病気の有無や性質を判定した後、松若さんに引き取ってもらう。以前は全頭殺処分だった。成犬は今も殺処分している。

-野犬の特徴は。

 人への警戒心の強さが野生動物と一緒。県内の群れは人を襲うことはないが、こちらが近づくとすっと数十メートルの距離を置いて離れる。野犬を飼う場合、子犬のうちに環境に慣れさせ、ゆっくり性格を変える必要があり、それを楽しめる人でないと難しい。

-殺処分数の推移は。

 2017年度にセンターに収容された犬は、飼い主からの引き取りと、飼い主不明の引き取りや捕獲を合わせ、計299匹だった。そのうち、飼い主が判明して返還したのが84匹、新たな飼い主への譲渡が136匹、殺処分が79匹だった。

 犬の収容数は、1985年度に1万2159匹だったのが、95年度は半数以下になり、2010年度には初めて千匹を下回り、その後も減少傾向にある。殺処分数(センター内での病死も含む)も、06年度に千匹を超えていたが、10年間で10分の1以下に減った。現在、望まない子犬が生まれて持ち込まれるケースはほぼゼロだ。放し飼いをしないことや不妊去勢手術が飼い主に周知された成果と考えている。

■野犬譲渡、京都府も訓練中

 京都府内では現在、京都市が野犬の譲渡を行っているが、子犬を引き渡したケースは今のところない。

 京都市医務衛生課によると、右京区の桂川河川敷に十匹ほどの群れが見られるほか、南区や伏見区でも野犬が確認され、捕獲の檻を設置している。市は府とともに2015年度から、ドッグトレーナーの有資格者らが、捕獲した野犬の性質などを判定し、譲渡可能なものは人に慣れさせる訓練をした上で引き渡す仕組みを採用。これまで捕獲した成犬約30匹のうち数匹を譲渡した。今年は子犬も数匹捕まえたが、まだ訓練中で譲渡はしていないという。

 一方、京都市を除く地域を管轄する京都府は17年度に成犬98匹を捕獲したが、野犬は含まれていなかった。府生活衛生課は「山中で猟をした時にはぐれた猟犬を保護するケースが多い。野犬の群れがいるという相談は聞いていない」とする。

 大津市では09年度の中核市移行で設立された市動物愛護センターも「市内に野犬の群れはない」としている。

【 2018年11月12日 12時18分 】

ニュース写真

  • 「事故で車いす生活になった時、この子たちが心のよりどころになった」と語る小野夫妻(湖南市石部中央5丁目)
  • 松若さん宅のドッグランスペースを駆け回る野犬から育てられた犬たち
  • 犬の収容数と殺処分率の推移
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