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入院17年 人工呼吸器の筋ジス男性が京都で自立一人暮らし

人工呼吸器を使う筋ジストロフィー患者で1人暮らしを始めた植田さん(京都市南区)。地下鉄でヘルパーと買い物に出かける
人工呼吸器を使う筋ジストロフィー患者で1人暮らしを始めた植田さん(京都市南区)。地下鉄でヘルパーと買い物に出かける

 筋肉が徐々に動かせなくなる難病、筋ジストロフィー(筋ジス)で、約17年間、京都市右京区の国立病院機構宇多野病院に入院していた男性がこのほど、南区で一人暮らしを始めた。人工呼吸器を装着して家族介護に頼らない自立生活。24時間公的ヘルパーの介助を受けて車いすでまちに買い物へ。「こっちの方が重低音いいんじゃないですか?」。ヒップホップについておしゃべりし、ある日は音響機器売り場を巡る。自由な生活へと歩み出している。

 植田健夫さん(43)は京都府舞鶴市生まれ。亀岡市に転居した少年時代に筋ジスを発症。人工呼吸器を使い始めるようになり、25歳で宇多野病院の筋ジス病棟に入院した。消灯時間も入浴回数も決まっている病院の生活。外出のみならず、院内を車いすで散歩するにも、ベッドからの移乗を忙しい看護師と調整しなくてはならない。

 一人暮らしのハードルは高く自分にはできないのではないか、と思っていた植田さん。でも今年3月、「重度訪問介護」という障害福祉サービスの存在を知り、可能性が見えると、「むちゃくちゃ自立したい気持ちになった」。

 障害当事者でつくる日本自立生活センター(南区)との出合いがあり、外出や試験外泊、ヘルパー候補との介助方法の打ち合わせを重ね、植田さんは退院へと駆けだしていった。京都市が重度訪問介護でヘルパーを24時間切れ目なく支給することを決定、一人暮らしの家も見つけた。毎日のごはんのレシピを考えるのも、洗濯や金銭管理など自分の暮らしの仕方を自分で決めるのも、新鮮な体験だ。

 「食事のメニューも病院では考えたことがなかった。今は(新生活のための)買い物ばかりだけど、京都探索がしたい。喫茶店やカフェを巡りたい」と話す。公営住宅5階の植田さん宅では買ったばかりのコーヒーメーカーからコーヒーの香りが漂い、東山の山並みが見える。

 宇多野病院など全国の旧国立療養所・筋ジス病棟は26カ所、約2280床。10代から何十年も長期入院し、そのまま亡くなる人も多い。2008年の厚生労働省研究班の報告によると、外出した経験のない患者が、半数もいた。

 国は2004年に医療費削減のために国立病院を独立行政法人の国立病院機構に移管。筋ジス病棟を特殊疾患療養病棟としつつ、さらに障害者総合支援法による「療養介護」という入所(入院)形態へと移行した。患者から「障害者」へ。重度訪問介護を申請すれば外泊を含めて外出などの際にヘルパー支援を入院中でも柔軟に使えるようになったのが2年前。だが、利用は進んでいない。「重度障害者入院時コミュニケーション支援員派遣事業」(意思疎通支援事業)という、在宅障害者が意思疎通に慣れたヘルパーを入院中でも使える仕組みを京都市などが作っているが、長期入院している人には、在宅福祉と出合うこと自体に、さまざまな壁がある。医師や看護師にも入院中のヘルパー利用について知らない人がいる。植田さんも、重度訪問介護が使えるのを知ったのは今年春のことだった。

 植田さんは12月24日、南区で開かれるシンポジウム「筋ジス病棟と地域生活の今とこれから~『筋ジストロフィー・クリスマス・シンポジウム』」で、自立生活の経験と夢を語る予定だ。

 シンポでは、8歳から金沢市内の筋ジス病棟に37年間入院していた古込和宏さん(46)も参加し、「この場所で生き続けるのか?」と、重度訪問介護を使って1人暮らしを昨年から始めた思いを語る。

 ロボットスーツ「HAL」の研究開発に取り組み神経筋疾患緩和ケアに詳しい国立病院機構新潟病院の中島孝院長、新著「病者障害者の戦後 生政治史点描」で国立療養所の歴史を書いた立命館大の立岩真也教授らも講演し、医療的ケアや介護体制などの様々な課題がある中、筋ジスの人たちの豊かな暮らしをどう実現するのか話し合う。

 南区の京都テルサで午前11時から、参加費500円。「国際障害者年」連続シンポジウム実行委員会主催。

 筋ジストロフィーの患者は国内推定約2万5000人。「重度訪問介護」は、見守りから身体介助、食事介助、生活支援や外出も含めて、長時間ヘルパーが重度障害者を介助する仕組み。

 植田さんはこう願う。

 「病院の厳重な管理体制はぼくの命の安全を守ってくれた。でも何かがかみ合わず、ぼくは自由とは言えなかった。でも今回は、主治医や病棟を含め理解ある人たちに出会えた。これから全国の病院から筋ジストロフィーの人たちがどんどん退院するかもしれない。病院はぼくたちにとっての牢獄ではなく、安全な出入り口であってほしい」

【 2018年12月16日 19時20分 】

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  • 人工呼吸器を使う筋ジストロフィー患者で1人暮らしを始めた植田さん(京都市南区)。地下鉄でヘルパーと買い物に出かける
  • 17年にわたる入院生活から自立生活を京都で始めた植田さん(京都市南区)
  • 重度訪問介護で1日24時間介護が支給され、いつもヘルパーが寄り添う
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