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がん治療で眠気「怠けている」と職場で誤解 働く患者に苦労多く

闘病経験を語るがんサバイバー。治療と仕事の両立には、社会の意識変革が欠かせない(京都市中京区)
闘病経験を語るがんサバイバー。治療と仕事の両立には、社会の意識変革が欠かせない(京都市中京区)

 日本では2人に1人ががんになる。2018年の最新予測では新たにがんと診断されたのは100万人超。14年は20~64歳の「働く世代」が3割弱を占めた。

 厚生労働省によると、労働者の3人に1人は、がんに限らず病気を抱えながら仕事をしている。女性の社会進出や定年延長が加速するポスト平成の新時代は、治療と仕事を両立する社会をどう築くかが問われる。

■周囲に同じ境遇おらず

 京都市南区の前田留里さん(46)は38歳で乳がんと診断された。医療法人で一般職の正社員になって5年目。子ども2人を育てるシングルマザーで、退職する選択肢はない。年末年始休暇などを使って手術した後、通院しながら働く生活が始まった。

 抗がん剤や放射線治療、ホルモン療法の副作用で夕方に眠気が襲ってくる。他部署の上司が「怠けている」と言ったのを知り、再発のリスクは上がるが、治療をやめる決断をした。

 周囲に同じ境遇の人がおらず苦労した経験から、患者同士で情報交換し、社会保険労務士ら専門家に相談する場として、15年にNPO法人「京都ワーキング・サバイバー」(南区)を立ち上げた。「仕事は治療費や生活費を得るのはもちろんだが、生きがいや社会参加のために欠かせない」と語る。

 平成の30年間でがんを取り巻く状況は大きく変わった。5年生存率は医療の進歩などで10ポイント近く上昇し、長く付き合う病気になりつつある。がんの免疫療法につながる研究でノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)・京都大特別教授は「がんはいずれ慢性疾患の一つとしてコントロールできるようになる」と述べる。

 しかし13年全国調査によると、がんを理由に依願退職したのは30%、解雇も4%あった。少子高齢化に伴う人材不足への危機感もあり、国は16年成立の改正がん対策基本法で、がん患者の雇用継続に配慮する努力義務を企業に課した。

 厚労省はガイドラインで、治療と仕事の両立支援に有効な勤務制度メニューを列記した。共同通信が行った主要91社のアンケートでは、短時間勤務は28・6%、在宅勤務は30・8%、時間単位の年次有給休暇は33%の導入にとどまる。

 「大人へのがん教育こそが大事で、主戦場は企業だ」と説くのは、東京大医学部付属病院の中川恵一准教授。がん教育は16年度から学習指導要領に盛り込まれ、今後、小中高校で授業が本格化する。しかし大人が、がんの知識を学ぶ機会は多くない。

■難病患者も離職多く

 難病患者も、社会の意識変革の必要性を痛感している。NPO法人「京都難病支援パッショーネ」(右京区)によると、一般企業に就職した支援対象者の半数は離職に至った。

 重症筋無力症患者で、理事長の上野山裕久さん(51)は「難病患者は日によって体調に波があり、企業が求める月曜から金曜の9~17時という働き方では休みを取りづらい」と語る。

 一昨年からは難病者やシングルマザー、ニートらと中小企業のマッチング、受け入れ企業の相談などを行う異分野ネットワーク「いっぽねっと」(南区)に参加する。「多様な人が働く大切さは頭では分かっていても、実行するのは簡単ではない。でも当事者が発信し、企業が抱える『こうあるべき』という垣根を崩していきたい」と力を込める。

【 2019年02月10日 18時10分 】

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