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コラム凡語:円か直線か

 現代人には奇異に感じられるかもしれないが、近代以前の日本人に進歩を良しとする考えは乏しかった。暮らしは季節が巡るような円環的な時間の中で営まれた▼先人の生き方が繰り返され、変化はゆっくり。京都造形芸術大講師の野口良平さんによれば、幕末・明治期にはそうした時間感覚に基づく理想を目指す動きもあったが、直線的な進歩を求める西欧の価値観が支配的となり、列強との性急で破滅的な競争に突き進んだ▼大阪万博が開かれた50年前、未来はバラ色だった。科学の進歩が人類に幸福をもたらし、貧困、食料、環境問題も解決してくれる…。バブル崩壊に始まる平成の30年間で夢物語は消え去った▼インターネットはいじめや犯罪の温床となり、過激な言論が社会を分断する。人工知能(AI)や生命科学は暴走の危険をはらむ。利便性より将来への不安が募る▼「哲学も未来を語らなくなった」と京都大教授出口康夫さん。マルクス主義体制が崩壊し、理想を掲げ社会を建設する思想が力を失った、と。未来に口を閉ざしている間に人道危機が至るところで生じた▼「平成」が間もなく終わる。スタートが繰り返される元号は円環的時間感覚の名残かもしれない。1周前、2周前の轍(てつ)を踏まぬよう急がず、時に立ち止まって未来を考えよう。

【 2019年03月26日 14時10分 】

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