出版案内
福祉事業団
京都新聞AR

「観光公害」で政治対立 バルセロナで見えた「観光の怖さ」

バルセロナ市長選の決起集会で、支持者に訴えるコラウ氏(5月23日)
バルセロナ市長選の決起集会で、支持者に訴えるコラウ氏(5月23日)

 国や人種の垣根を越えた交流を広げるはずの観光客の増加が、暮らしに負の影響をもたらして住民との分断を生んでいる。まちづくりの方向性をも左右する事態に直面する国内外の実態を追い、同じ課題を抱える京都のこれからを見つめ直す。

 午後8時を過ぎても日差しが残る大広場に、市民の熱気が充満する。スペイン北東部カタルーニャ自治州のバルセロナ市。市長選の投開票を週末に控えた5月23日夜、急進左派政党「共同バルセロナ」が中心部で決起集会を開いた。

■「バルセロナは売り物ではない」

 「アルカルデッサ!(市長へ)」。1千人を超える支持者のコールに迎えられ、現職のアダ・コラウ候補(45)が登壇した。観光客の急増が暮らしに影響を与えるオーバーツーリズム対策が争点となった前回の2015年市長選でホテル建設凍結を公約に掲げ、同市初の女性市長に就任した。

 「バルセロナは売り物ではない。私はこの4年間、市民の声を市政に反映してきた」。現地のカタルーニャ語で呼びかけると、拍手と歓声がわき起こった。

■家賃高騰、1万2千人が立ち退きに

 人口約160万人の国際観光都市バルセロナには年間907万人の宿泊客が訪れる。建築家ガウディが生涯をささげた世界遺産サグラダ・ファミリア教会など歴史的建造物が多く、1992年の五輪開催を機に外国人観光客が増え始めた。ところが、近年は住民とのあつれきが表面化し、市民の観光反対デモも起こる。「観光客を受け入れる限度が近いか」。16年、市の市民アンケートでは約半数が同意。4年前の倍だ。

 コラウ候補の集会で支持者が手にしていた選挙の公約集には、1期目の実績が図入りで並ぶ。その一つが、17年1月に導入した宿泊施設立地規制策「ペーワット」。市内を4エリアに分け、旧市街など中心部はホテルや民泊の新設を禁じる一方、周辺部は一定条件で新設を認めた。

 宿泊施設の急増が背景にある。施策導入前の5年間でホテル客室数は20%増、許可された民泊は3年前から4倍増の1万件近くに増えた。無許可民泊も数千件に上った。市幹部として立案を担ったアルベルト・アリアス氏(38)は「もちろん宿泊業界の反発は強かったが、住宅が民泊などに代わるのを防ぎ、市民の住む権利を保障するために必要だった」と強調する。

 迎えた今回の市長選。観光の過熱から派生した住宅確保策が最大の争点となった。この4年間に家賃高騰などで1万2千人が立ち退きにあい、43%の市民が住居費に収入の40%以上を充てているとされる。宿泊施設の建設ラッシュが地価上昇を招き、住まいが確保しにくくなる構図は京都市にも重なる。

■「観光は炎、家を燃やす」

 「外国人投資家が不動産を買いあさり、人に貸す。私のマンションも民泊ができて家賃が上がった」。市中心部に住むアンパロ・ロペスさん(45)はこぼす。

 コラウ候補と争ったのは伝統政党「カタルーニャ共和左派」のエルネスト・マラガイ候補(76)。バルセロナ五輪を成功させた当時の市長の弟だ。賃貸住宅の料金抑制策を前面に訴えた。他の候補も「コラウは公営住宅を8千建てると約束したが、実現は800だけだ」と批判の声を上げた。州の独立問題も絡んで市長選は接戦となり、投開票から2週間以上過ぎても新市長は確定していない。

 観光公害が政治対立にまで発展し、観光客と住民、さらには住民同士に亀裂を入れる。「観光は炎のようなもの。うまく扱えば料理が作れるが、家を燃やすこともある」。バルセロナ市内の大学で、クラウディオ・ミラノ教授(34)=観光学=は両刃(もろは)の剣としての「観光」の怖さを指摘した。

【 2019年06月19日 11時41分 】

ニュース写真

  • バルセロナ市長選の決起集会で、支持者に訴えるコラウ氏(5月23日)
岸田繁 交響曲第一番・第二番 連続演奏会 2019.10.5

    地域の政治・社会ニュース

    全国の政治・社会ニュース