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都会の当たり前通じない 戦略空回りの「地方創生」展望開けず

笠置駅から続く商店街。にぎわいを取り戻すための人材確保が課題だ(京都府笠置町)
笠置駅から続く商店街。にぎわいを取り戻すための人材確保が課題だ(京都府笠置町)

 青々とした水田に囲まれた滋賀県東近江市五個荘地区の一角。日焼けした新入社員の赤田知之さん(42)と代表取締役の奥山進さん(79)が、トウガラシの育ち具合を確かめる。奥山さんの会社は、無農薬栽培のトウガラシを加工した調味料が主力商品だ。「いつか誰かに会社を譲ろうと思いつつ、気づけば80歳目前でした」

 2人が出会うきっかけは、同市などが昨秋、東京で初開催した「後継ぎ探し」の相談会だった。奥山さんは期待して参加したものの、滋賀県外の候補者に移住の本気度を探ると間を置いた返事ばかり。一方で彦根市に暮らし、工場勤務が長かった赤田さんは後日の応募で、受付順も25番目だったが、自宅から職場まで車で15分。「人生100年時代。死ぬまで働ける仕事がしたい」という決意も奥山さんの心を打ち、後継者候補として2月に入社した。

 相談会に参加した8事業者のうち、マッチングの成功例は奥山さんだけ。応募ゼロの事業者もあった。東京から地方への新たな流れは生まれなかった。

 安倍政権は東京一極集中の是正を「地方創生」の柱とし、地方への移住や企業移転を促す。政府は事業承継の支援拠点を各都道府県に設けているが、滋賀の相談件数は全国で2番目に少ない。東近江でも後継不足から黒字のまま廃業した事業主がいる。赤田さんは「出会うきっかけが増えれば、地方の中小企業はもっと生き残れるのに」と感じる。

 人口減少に直面する地方にアイデアを競わせて国が資金を交付する地方創生は、2019年度で1期目5年間が終わる。空回りの事例も目立つ。

 京都府笠置町の青柳良明副町長(64)は2年前の就任早々、町の申請を受けて国が採択した地方創生事業の一覧を見て絶句した。15~19年度の事業費は、宿泊施設の整備などで7億円超。年間予算15億円の町ではこなせないと判断し、半額近くを国に返上した。府職員出身の青柳さんは「戦略を描けないまま、国がお金を出す流れに地方が慌てて乗ってしまった。次があるなら確実に効果を出せる方法を選ばなければならない」と気を引き締める。

 成果を出した事業もある。岩や壁面を登るボルダリングを題材に、町が舞台となった映画「笠置ROCK!」は、国内外の四つの映画祭に出品された。一方、移住希望者向けに空き家を約2千万円かけて改修した「お試し住宅」は今も利用がない。企業を呼び込もうと整備した貸事務所も町職員が100社以上回ったが、常時利用につながらなかった。

 中小企業の後継者難と同じく、まちづくりも人材確保が最大の課題だ。官民出資の笠置まちづくり会社が昨年7月、「時給千円、ワードとエクセルが使える人」を条件に事務員を募集したときは、3カ月間応募がなかった。国事業の地域おこし協力隊員として笠置に移住し、同社で働く藤田始史(もとし)さん(39)は「町内はそもそも働き手が少ない。都会の当たり前が田舎では当たり前ではなかった」と、京都市内の設計事務所に勤めていた頃との違いを痛感する。

 「地方が持つ強みを生かすことで、安倍内閣は地方が直面している課題にも真正面から立ち向かう」。安倍晋三首相は6月、国会閉会後の記者会見で語った。生かす強みは何か。多くの地方はまだ模索段階にある。その実情に政治は十分目を配れていない。

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 参院選では安倍政権の6年半をどう評価するかが問われる。年金や景気、憲法改正や教育…。争点となっている政策課題の現場を訪ねる。

【 2019年07月15日 10時30分 】

ニュース写真

  • 笠置駅から続く商店街。にぎわいを取り戻すための人材確保が課題だ(京都府笠置町)
  • 自社栽培しているトウガラシの手入れを行う奥山さん(左)と赤田さん=東近江市
岸田繁 交響曲第一番・第二番 連続演奏会 2019.10.5

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