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「生きた証し」実名を語る理由と祈り 京アニ事件犠牲者両親

事件を受けて、映画「リズと青い鳥」ポスターなどを展示している京都文化博物館(京都市中京区)
事件を受けて、映画「リズと青い鳥」ポスターなどを展示している京都文化博物館(京都市中京区)

 京都市伏見区のアニメ製作会社「京都アニメーション」(京アニ)の放火殺人事件で、色使いの美しさを特長とする京アニ作品の「色彩」を20年以上担当してきた石田奈央美さん(49)の死亡が29日までに確認された。両親の元には友人やファンから多くの言葉が寄せられ、2人は娘の作品がこんなに愛されていると初めて知った。悲しみのただ中にあるが、娘の人生を多くの人に知ってほしいと願う。

 石田さんは染色職人の父親(83)と母親(78)と伏見区内で暮らしていた。洛水高を卒業後、一時は病院に勤めたが、退職してアニメ専門学校に通い、22歳で草創期の京アニに就職した。アニメの色使いを考える色彩を長年担当。「涼宮ハルヒ」シリーズや、映画の「聲(こえ)の形」「リズと青い鳥」では、アニメの世界観やイメージを、色彩を通して担う中心的な役割である「色彩設計」を担った。

 残業や休日出勤もいとわない姿に、母親は「本当に仕事が好きで、天職なんやな」と思っていた。ただ作品を一度も見たことはなかった。

 あの日、「傘を持って行き」といつものように弁当を渡し、見送った。普段は別のスタジオで働いているので、事件を知っても「大丈夫やろ」と思った。しかし、何回電話してもつながらず、帰宅時間の午後7時を過ぎても「ただいま」の声は聞かれなかった。

 2度のDNA型鑑定を経て23日に遺体を引き取った。渡された遺品は、長い髪をいつも束ねていたゴムとプラスチック部分の溶けたヘアピンだけ。死亡検案書に死亡時刻は「(出火直後の)午前10時40分頃推定」とあり、京都府警の捜査員から「2階で亡くなられており、わずかな時間で息ができなくなったのでは」と説明を受けた。母親は「つらかったやろな。熱かったやろな。でも、あまり苦しまなくて済んだのかな」と、せめてもの心の救いにしている。

 娘が生きてきた証しを残したいと、事件直後からマスコミの取材に応じ続ける。娘は製作チームの一員という程度に思っていたが、安否不明を伝える報道で京アニの中核を担っていたと知った。インターネット上でも「見たこともない緻密な色」「何度となく感動」とその才能を惜しむ書き込みが相次ぐ。26日に営まれた葬儀には友人や同僚が駆け付け、自分たちが知らなかった娘の姿を語ってくれた。

 「ひどい事件で死んでしまったけど、娘の活躍を知ってうれしいなとも思う。親孝行のしっかりものやった。娘はこんな人間やったと知ってもらいたい」。母親が声を詰まらせた。

 献花台には今も石田さんを知る人が訪れる。同級生で葬儀に参列した女性(49)は「ナオは自分を見せびらかさない。こんなすごい業績のある人だったなんて…」。別の友人の女性(49)は「これだけの作品を手掛け、多くの人を励ましたり喜ばせたりしていた。すごい友達、自慢できる友達」と語り、嗚咽(おえつ)した。

 両親は自分たちの墓や葬儀費用の準備をしていたが、まさか娘を先に送るとは思いもしなかった。石田さんの部屋に設けた祭壇。「あの子が熱くないように」と、両親は遺影に供える水をひんぱんにかえている。

 映画「リズと青い鳥」のパンフレットで石田さんは「透明感や光を感じられる色」「全体的にセルの色が背景に寄り添うイメージ」とこだわりを語っていた。また石田さんは映画「聲の形」のパンフレットでこう書いている。

 「世界は美しいということを意識してキレイな絵になるように試行錯誤しながら作っています」

【 2019年07月30日 09時40分 】

ニュース写真

  • 事件を受けて、映画「リズと青い鳥」ポスターなどを展示している京都文化博物館(京都市中京区)
  • 石田さんの遺影に水を入れたコップを供える母親(京都市伏見区)
岸田繁 交響曲第一番・第二番 連続演奏会 2019.10.5

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