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丁寧な作品、幸せに満ちた日常…京アニにエール集まる理由

アニメ「たまこまーけっと」で舞台のモデルとなった出町桝形商店街。「いつもあなたのそばにある」の看板の言葉は、作品から逆輸入された(京都市上京区)
アニメ「たまこまーけっと」で舞台のモデルとなった出町桝形商店街。「いつもあなたのそばにある」の看板の言葉は、作品から逆輸入された(京都市上京区)

 従業員165人中、4割にあたる68人が死傷した。「京都アニメーション」(京アニ)の第一線の監督や若者たちの未来を奪った凶行。影響は計り知れないが「今は被害者ケアが最優先であり、今後の作品づくりは関係者と話し合いもできていないのが現状」(京アニの代理人弁護士)と打ち明ける。

 もともと9月には京アニ製作の映画「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」、来年1月には「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の公開が予告されていた。作品の公式ホームページ(HP)は31日現在、事件前と変わらぬ公開日を示している。ただ、HP記載のスタッフの中には安否不明の人もいる。「あまりの惨劇に、すぐには動けない」(映画関係者)のが実情だ。

 悲しみは世界中に広がった。海外のクリエーターや文化産業に携わる企業もSNSを通じて追悼メッセージを発信。京アニが設けた専用口座には支援金が続々と集まっている。

 なぜ、京アニ作品は国内外でこれほど愛されるのか。1981年の創業から京アニが一貫してこだわったのが「丁寧さ」だった。

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 京アニの歴史は、八田英明社長の妻陽子さんが、手塚治虫の「虫プロ」で以前働いていた縁で、近所の主婦仲間とセル画に色を付ける仕上げを手掛けたことに始まる。東京のアニメ会社を回って仕事を集め、「下請けの下請け」という内職的感覚で出発した。ジブリ作品をはじめ質の高い仕事で評価を得て、動画や原画、演出などの工程もできるように技術を蓄積した。

 八田社長は、かつて京都新聞社の取材に「少しずつ、少しずつ。でも下請けでは終わらないぞという気持ちはあった」と語っている。東京では下請けへの分業が主流の業界で、シナリオから仕上げまで、ほぼ全ての工程を京都で完結できるようになったことが個性となり、ブランド化。「京アニクオリティー」と言われる繊細でみずみずしいアニメを生む源となった。

 若いアニメーターにとっては憧れの存在に。「北海道からも九州からも人が来て、みな京都が好き」「スタッフの引き抜きがなく、落ち着いて製作に専念できる」と八田社長は語っていた。製作現場は若さにあふれ、学校の文化祭で仲間がワイワイと作っているような温かみも。それは京アニの作品世界と重なり合う。

 語らう喜び、夢を膨らませるドキドキ感、時には失敗のほろ苦さ。でも最後は笑顔で終わるのが京アニ作品の特長。描写が繊細だからこそ際立つ「何気ない日常」は、現実と地続きのような世界でありながら、リアルな社会では見失われた幸せ感に満ちている。

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 京都や滋賀の風景を採り入れた「けいおん!」や「響け!ユーフォニアム」に象徴されるように、京アニ作品ではアニメーターが街を歩いて取材を重ね、精細なアニメに立ち上がらせる。ファンがモデルになった舞台を訪ねる「聖地巡礼」も京アニ作品でブレーク。映像にとどまらない文化を各地で育んだ。アニメと社会の関係に詳しい岡本健近畿大准教授は「風景などを緻密に描く京アニの圧倒的クオリティーは、人を動かす力があった。聖地巡礼は、京アニが呼び掛けたわけでなく、見た人たちが自ら作品世界に浸りたい、参加したいと率先。作品とつながる風景や街に近づこうとしてきた」と読み解く。

 そんな「日常のきらめき」を丁寧に紡いできた人たちが、対極にある理不尽な暴力に遭った。「この事実が悲しみを深く、波紋や傷を大きなものにしている」。岡本准教授はファンの一人として語る。

 「いつもあなたのそばにある」。京アニ作品「たまこまーけっと」の舞台のモデルとなった出町桝形商店街(京都市上京区)には、そんなメッセージの看板がある。実は、作中の「うさぎ山商店街」に登場したのが先。それを見たファンが商店街に働き掛け、5年前から実際の看板として掲げられている。「京アニは人のつながりを作ってくれた。支えていきたい」と岸本仁専務理事。

 傷ついた京アニのそばに有形無形でつながった人々の思いが寄り添っている。

【 2019年08月01日 12時50分 】

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  • アニメ「たまこまーけっと」で舞台のモデルとなった出町桝形商店街。「いつもあなたのそばにある」の看板の言葉は、作品から逆輸入された(京都市上京区)
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