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社説:裁判記録の廃棄 後世の検証を阻む行為

 合憲か違憲かなどが争われた戦後の重要な民事裁判の記録多数を全国の裁判所が廃棄処分していたことが、共同通信の調べで判明した。

 処分された記録の中には、ミサイル基地建設を巡り一審札幌地裁で自衛隊に違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟や、沖縄の米軍用地の強制使用を巡る代理署名訴訟など歴史的な裁判も含まれる。

 判決文など結論文書はおおむね残されていたが、審理過程の文書が失われており、裁判所が当事者の訴えをどう受け止め、どう結論を導いたのか、後世の検証ができなくなっている。

 信じがたい事態である。近年、森友、加計学園問題や自衛隊の日報隠蔽などで公文書管理のずさんな実態が露呈したが、重要な裁判記録についても安易な廃棄が常態化していたことになる。

 憲法判断に関わる裁判記録は、単なる裁判所の資料ではなく、国民の知る権利に応える貴重な共有財産だ。恣意(しい)的に闇に葬られることがない確かなルールに変える必要がある。

 廃棄されたのは、代表的な憲法判例集に掲載された裁判記録137件のうち8割以上に当たる118件。いずれも原告や被告が出した書類、法廷でのやりとりなど裁判の全容が分かる文書だ。

 最高裁の規定では、判決文は50年保存だが、通常の民事裁判の場合、裁判記録は確定や和解後に一審の裁判所が5年間保存し、廃棄する。

 しかし、重要な憲法判断や判例、社会の耳目を集めた裁判など「史料または参考資料となるべき記録」は「特別保存」して、事実上の永久保存とするよう義務づけている。

 それがほとんど守られていなかったことになる。特別保存されたのは6件のみだ。最高裁は廃棄が適切だったかとの質問に「各裁判所の判断」と回答を避ける一方、学術研究者の保存要望が少なかったことを理由に挙げたという。

 ただ、特別保存に学術研究者の要望が必要なわけではない。専門家は規定違反の疑いを指摘している。

 裁判記録の廃棄は、裏返せば、国民の共有財産であるとの認識が日本の司法に希薄だったことの証左でもあろう。

 米国では多くの裁判記録が原則永久保存され、インターネットを通じた情報公開も進む。最高裁は機能不全に陥っている保存のあり方を根本的に見直し、新たなルールづくりを急ぐべきだ。

【 2019年08月14日 13時14分 】

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