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法律で体罰禁止「しつけの逃げ道ふさいだ」 児童虐待の研究者

法改正の意義などについて語る橋本和明教授(京都市中京区・花園大)
法改正の意義などについて語る橋本和明教授(京都市中京区・花園大)

 虐待による子どもの悲惨な死が相次ぐ状況を受け、親から子への体罰禁止と、児童相談所(児相)の体制強化を盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が先月、国会で成立した。法改正の意義と虐待をなくすための課題について、厚生労働省の専門委員会で児童虐待の死亡事例を検証している花園大の橋本和明教授(臨床心理学)に聞いた。

 親による体罰禁止が法律に明文化されたことは評価できる。殴ったなどと客観的な事実があっても、親が「しつけの一環」と主張して虐待を否定することが多かった。法改正で「手を挙げること自体がだめ」とされ、「しつけ」とする逃げ道をふさいだ。一時保護をはじめとする児童相談所の介入がこれまでよりしやすくなるだろう。

 罰則規定がないことから実効性を不安視する見方があるかもしれないが、暴行罪など刑法の運用で対応は可能だ。国は(親権者に必要な範囲で子どもを戒めることを認めている)民法の懲戒権を見直す検討も始めた。今回の法改正と合わせ、社会全体の認識を変える点でも意義がある。

■悲惨な死を教訓に

 児童虐待で子どもが亡くなった事件の教訓が改正法に反映された。児相の体制強化として、医師と保健師の配置を義務化、常に弁護士の助言と指導を受けて業務を進めることになった。

 昨年3月に東京都目黒区で船戸結愛ちゃん=当時(5)=が亡くなった事件は、外部の医師があざから虐待が疑われると伝えたが、児相の職員が重大性を認識できなかった。虐待について正しく判断できる医療の専門職は常時必要だ。弁護士については、例えば一時保護後に親元へ帰さず施設入所措置を進めるケースで、家庭裁判所への法的手続きを行うための助言などが期待されている。

 学校や教育委員会の守秘義務も明記。今年1月に千葉県野田市で栗原心愛さん=当時(10)=が亡くなった事件で、女児が学校のいじめアンケートで「父からの暴力」を訴えたにもかかわらず、教育委員会が親に写しを渡し、虐待がエスカレートした。教員は医師と同様に早期発見と通告の義務が定められていたが、守秘義務という当たり前のことを明文化したのは、教員としての責任の自覚を促すメッセージとも言える。

■虐待の危険性高い家族「国が介入情報の一括管理を」

 ただ、人材確保に不安が残る。児相は、都道府県や政令指定都市、一部の中核市が運営しているが、規模の差が大きい。今回の改正で、一時保護などの「介入」の担当と、保護者への「支援」の担当が分かれることになった。一時保護を担当した児童福祉司が親とも関わることで、親は「勝手に連れ去った」と敵対心を持ち、改善プログラムを進めにくかったからだ。しかし、人員確保が難しいところもあるだろう。

 児童虐待問題を解決するには、自治体に任せっきりでなく、国が積極的に関与する新しい仕組みが必要だ。国は、児童福祉司2千人増を目標に掲げるが、新人や経験の浅い人ばかりでは十分に機能しない。職員の資質向上のための研修などについて、国が主体的に関わってほしい。

 検討すべき課題は、まだ残されている。

 虐待の危険性の高い家族について、国が介入情報を一括管理し、家族の転居先の児相に伝えて対応を指示する仕組みを提案したい。目黒区、野田市の事件ともに家族が都道府県をまたいで転居し、転居先の児相が転居前の情報を深刻に受け止められず、状況把握に時間がかかった。刑法犯罪で国が情報管理している例はある。

 ネグレクト(育児放棄)でほったらかしにされて亡くなる虐待は、改正法の施行後も介入は難しい。「愛情をかけなさい」と言っても、もともと子への愛情が親にないのだから心に響かない。

 一例だが、厚生労働省は「乳児揺さぶり症候群」防止に向けて、同省ホームページに動画「赤ちゃんが泣きやまない」を掲載している。親がさまざまに試しても子どもが泣きやまなければ、安全なところに置き、その場を離れるよう助言している。泣くだけならば親がいらいらして揺さぶってしまうよりはいい、という次善の策だ。

 虐待防止のためには、児童福祉司をはじめ保健師や行政の教室など、社会全体がさまざまな立場や機会で親に関わる必要があるが、その際は愛情だけに焦点を当てるのではなく、子育ての幅広いあり方を認めるという意識が広がっていくことも必要だ。

【 2019年08月24日 20時15分 】

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  • 法改正の意義などについて語る橋本和明教授(京都市中京区・花園大)
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